言霊の幸わう国

空っぽの手

 夕方、ハハとふたりで洗面所の大掃除をしていた。
 初めはこれ使うの? いるの? といちいち台所にまで行って確認していたら、ハハもそっちに行くわと重い腰を上げた。
 ハハはなかなか物が捨てられない人で、確かにそれはある部分ありがたいこともあるのだけれど、どちらかというと捨て癖のついているわたしとしてはもどかしい思いをすることも多かった。

 この化粧品使ってんの? この歯ブラシの山はどうすんの? こんなにシャワーキャップ集めてどうすんねん。
 と、突っ込んで突っ込んで突っ込んで、次々とゴミ袋に入れることに成功した。

 鏡の裏の棚、洗面台したの棚、脱衣カゴ。
 狭い洗面所に座り込み、順々に片付けていった。
 ひと通り済んだころだったろうか、ゴミ袋へと手を往復させながらハハは言った。
「あんたと一緒やったら、物が捨てられるわー。」
 その言葉にふふふと笑いを返しながら、頭の中では別の人から言われたことを思い出していた。

 今までに、わたしが物や人を捨てることに対し異議申し立てをされたことが2回あった。
 最近の出来事と、もう10年以上前の出来事の両方を思い出して、捨てることについてはわたしは変わることはなかったのだなと思った。

 捨てたくて捨ててきたものばかりではない。
 泣く泣くとは言わなくても、自分という容量の小ささを認めてそうしてきたものもある。

 果たして10年以上前のあの日と、最近のあの日までに、同じ捨てるにしてもわたしの器は大きくなってはいなかったのか。
 成長しなかったと自己否定するつもりはない。
 10年という時間は決して短くはないのだから、わずかながらでも大きくはなっているはずだ。
 でもどうして、わたしは何度も容量の小ささで手離すものをなくすことができないのだろう。

 きっと捨てる理由は、容量の大きさではなく懐の深さなのかもしれない。
 人としての浅さ。
 ではないだろうか。

 でもここでも、自分に甘いわたしは自己否定する気にはなれない。
 捨てるときには自分の中の天秤でことを見極めることで、大切なものはなんなのかを一生懸命考えてきたつもりだ。
 捨てたり切ったりしたあとは、そんなふうに決めた結果だとしても、手持ち無沙汰加減についつい手離したことが正しかったのかと考えてしまうこともあるけれど、絶対大丈夫。
 開いた掌は、我ながら艶々して力強い。
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by fastfoward.koga | 2008-12-22 19:55 | 一日一言