言霊の幸わう国

岩手懐古・録  【光原社で浸る】

 辿り着いた開運橋で1度地図を開き、いーはとーぶアベニューの位置を確認した。
 こういうときにいつも思うのは、地図を読むのが苦手でなくてよかったなということ。
 旅先では歩けば歩くほど、頭の中にその町の地図が出来上がる。
 それがわたしの旅の楽しみのひとつで、歩かずに立ち去った場所はそれほど記憶に残らないことが多い。
 この日もそうして地図を広げて、バスには乗らず歩いて歩いて歩き回って盛岡市内の地図を頭の中で広げていった。

 開運橋から北上川沿いの道を進む。
 川のほうから聞こえる鳥の鳴き声に、ときおりY嬢が応えた。
 川に向かって立ち並ぶマンションのベランダを見ながら、旅先でいつも家賃はどのくらいなんか気になるねんかー、なんてことを話した。
 するといーはとーぶアベニューの入口に差し掛かったところにちょうど不動産屋さんがあり、ふたりして表に貼り出されていた物件をちょっとだけ物色した。
 いつもこんなふうに、うーん住めるかな、じゃあ仕事はどうしよう、なんて密かに想像する。
 そういえば、これも楽しみのひとつ。

 そんなこんなでやって来た、いーはとーぶアベニュー。
 ここは所謂商店街で、その道すがらに宮沢賢治のモニュメントがあちこちに置かれている。
 歩き始めてまず目に付くのは足を組んで座る宮沢賢治の像で、それはもうその肩は思わず手を乗せたくなるような哀愁のある背中を持っていた。
 帰り道でさんざんその像と戯れるのだけれど、行きは先を急ぐように横目で通り過ぎた。
 目指すは光原社なので、不動産屋は見てもここで寄り道はしないのだ。

 その光原社は、見つけたときに思わず、あ!ここ! と指差して言ってしまうほど雰囲気のあるいい建物だった。
 わたしは道沿いの店にはわき目もふらず、なぜか見たいものはこの先にあると間にあった道を奥へと進んだ。
 喫茶店もアジアン雑貨の店も通り過ぎて、真っ先に入ったのはマヂエル館。
 ここには宮沢賢治の童話の挿絵を手がけた柚木沙弥郎(ゆのきさみろう)の作品や、光原社の及川氏と賢治がやりとりした手紙などが展示されていた。

 挿絵の明るい色使いで、きもちはふわっと華やかになった。
 並んだ作品に指を差し差し、これがすき、とY嬢と言い合った。
 ガラスケースの中に置かれた賢治の手紙では、その文字が意外とかわいらしく予想どおり神経質で、わたしは持って帰りたくなるくらい惹かれた。
 こういう字書く人すきやわとその思いを口にすると、Y嬢は少し顔をしかめてわたしは嫌やなと言った。
 そういうやりとりは、ひとり旅にはない。間違いなく。
 そのことを、ほんの一瞬噛みしめた。

 マヂエル館を出、さらに奥へと進んだ。
 左手の白壁には賢治の言葉がいくつもいくつも書かれていて、思わず立ち止まって読み入ってしまった。
 言葉に宿る力。
 お腹の底から湧き出た言葉は、強いなと思った。
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 北上川の見える1番奥の手すりには、誰かの作った雪だるまがふたつ仲よく佇んでいた。
 ここは、想像以上に落ち着く。
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by fastfoward.koga | 2009-02-19 22:56 | 旅行けば | Comments(2)
Commented by calligraphy_m at 2009-02-20 18:50
いい書だなぁ。
明るくて素朴。
どなたの書なんでしょう?
光原社、落ち着くのですね。
ああ、いつか行ってみたいです。
Commented by fastfoward.koga at 2009-02-22 06:16
calligraphy_mさん、おはようございます。
お返事が遅くなって、すみません。

これはたぶん宮沢賢治の直筆を転記(?)したものだと思います。
これ以外にも、有名な「雨にもマケズ~」もありましたが、その文字は賢治のものでしたから。

光原社、ほんまお薦めです。
気候のいいころなら、外で日向ぼっこしながら賢治の言葉をじっと眺めていられそうです。