言霊の幸わう国

指の隙間からこぼれ落ちる

 朝から歯の痛みを感じていた。
 歯みがきのときに口に含んだ水が沁みた痛みを引きずっているのか、リアルタイムで虫歯が痛んでいるのか判別がつかなかった。
 左右どちらも奥から2番目。
 何度も口に指をつっこんで歯を押さえたくなった。

 晴れ間が出たり曇ったり、雨が降ったりやんだりの1日。
 薄く朝陽の差す中、置き傘を持ってうちを出た。
 夕方にその傘を持って帰るなんて、思いもしなかった。
 会社から駅まで、置き傘で受け止めた雨粒は100粒くらい。
 細い針のような雨は、傘がなくても帰れたような気がする。

 帰りの電車から、川の向こうに見える山のラインをなぞった。
 歯の痛みも置き傘も、この陽の光の差しかたも。
 こうして書き留めても、今と同じ感覚で思い出すことはできないだろう。
 きっとすぐ見失って忘れてしまう。

 記憶と感情を離れ離れにしないようにして抽斗にしまうのは、難しい。
 急に流れ去ったものが惜しくなった。
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by fastfoward.koga | 2009-05-06 20:08 | 一日一言