言霊の幸わう国

晴れ男

 帰りの電車の中から、ずっと昨日今日降った雨の描写について考えた。この雨は、わたしが今までに出会った雨とは違っている気がしていた。なんども頭と心のフィルターでろ過して、はまる言葉を探してみた。でもなかなかしっくりくる言葉に変換されない。内へ内へと向かっていた視線を外に向け、周囲にピントを合わせてみた。そうやっていると、なんとなくしっぽを掴まえることができたような気がした。
 この二日間、うまく雨を切り抜けたせいか雨が降ったという実感がなかった。雨音に耳を澄ますこともなかったし、落ちてくる雨の質感も捉えることがなかった。そう。今回の雨は、ただ世界のすべてを濡らしたという事実しか、わたしには与えなかったのだ。そんな微妙な雨の日に、雨の降る小説を読んだ。空いた電車で、その一文から目を離し見えた景色が忘れられない。
 一日の終わり、別の世界に旅立った彼のことを考えた。たった二分。そんな時間しか向き合うことができなかったけれど、今日見た景色のようにその存在を忘れることなどない。
 晴れ男だった彼のことをこんな雨の日に思い出すなんて、奇妙な感じがする。そうこうしているうちに三六五分の一日がしっかりと手応えを残して、新しい一日に変身した。こうして今もわたしの時計だけが進んでいる。

 課題 「私の出会った人物」というテーマで六〇〇字の作品を作ってみよう。
     さっきと同じテーマで、もうひとつ。同じ人物を違う視点、違う手法で書いても、別の人でも可。

 ※ 過去、ここで書いたものを手直ししています。
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by fastfoward.koga | 2009-06-09 22:06 | 四〇〇字・課題 | Comments(0)