言霊の幸わう国

プール

 コップに入った水は、照らす灯りとは反対側に影をつくる。体を折り曲げるように内へ内へと影は濃くなり、間を切り裂くようにひと筋の光が通り抜けてゆく。その様を見ていると、神様にでも導かれるようにすっときもちが開いて上ってゆく。
 我慢できずにコップの中に指を浸す。指先に触れる水の温度が、そこだけ蒸し暑さをなかったことにしてくれる。行儀が悪いと指を引っこ抜くと、濡れていることに違和感を覚える。ずっと水の中にいれば、濡れているという感覚はない。そこで自分が水の中に体を沈めてしまうことのほうが、今よりずっと正しいことだと思っていることに気づく。
 どうして自分は魚じゃないのだろうか。こどものころは水の中をつるつる滑るように泳げたのに。あのころも水の中に潜るとやっぱりひと筋の光が見え、ひたすらそこへ辿り着こうとしていた。コップの水を見つめていると、つるっと飛び込みたい衝動に襲われる。

 課題 「ガラスのコップに水を入れて机上に置き、
       それを見ながら『水の入ったコップ』というテーマで四〇〇字の作品を作ってみよう」
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by fastfoward.koga | 2009-07-07 23:27 | 四〇〇字・課題