言霊の幸わう国

7ミリの攻防

 今年は新しいサンダルを買おうと、夏が始まる前から思っていた。
 バーゲンもひと段落ついたころやっと出かけて、ここにもない、ここにもない、とお店をはしごし、そろそろこのあたりでないとまずいと思ったところで、やっとこれはというサンダルを見つけた。

 鏡の前に立つとぐんと背が伸びたように見える。
 店内をくるっと歩いてみても、シャキッとする。
 ええ感じや、という思いと、一方でヒールが高すぎないか、という思い。
 でももう散々探してきたしなと、えいやーっと買ってしまった。

 しかし。
 過去に、あれだけ後悔と反省をくり返してきたというのに。
 いや今度こそ。今度は違う。
 と、ダメな男に引っかかったときのような逡巡。
 高いヒールは足を痛めるし、結局履かなくなるとわかっているのに。
 なぜ、どうして。

 案の定1日中履いてられるような代物ではなく、会社に行くときに履いて会社に着いたら履き替えて、でも限界。
 いつも帰りは、痛い痛いと心の中でつぶやいていた。

 仕方なく最後の奥の手で、靴の修理屋さんに持って行った。
 可能なかぎりヒールを低くしてくださいと言うと、これなら7ミリくらいしか削れませんけど、いいですか? と店員さん。
 わたしはあーもうそれでも構いません。ちょっと調子に乗りすぎたんですよねーと言わなくてもいいことまで言うと、店員さんは任してくださいとばかりに大きく頷いた。

 7ミリ低くなった仕上がりは、意外なほど楽に感じた。
 サンダルに足を入れストラップを止めると、足が地に着いている安心感があった。
 あーよかったよかった、ありがとうございますと、わたしは支払いを済ませてお店を出た。

 でも、少し歩き始めて、ふと思う。
 失くした7ミリは、果たして7ミリだけだったのか。
 改めて考えてもそれしか選択肢はなかった。
 でも、ほんの微量女として負けた気もする。

 それは日常よくあることなのだが、後ろ髪引かれる。
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by fastfoward.koga | 2009-08-08 20:18 | 一日一言