言霊の幸わう国

そこは底なし沼

 昨日、NHKの「トップランナー」に『スラムダンク』や『バガボンド』の作者井上雄彦氏が登場した。
 友人K嬢からメールをもらい、少し遅れてテレビを付けるとそこには早速苦悩する彼の顔。
 どちらのマンガも読んだことはないし、眠くて眠くて仕方なかったけれど、途中でテレビを消すことはできなかった。

 様々な迷いが断ち切れず、1年休載した『バガボンド』。
 その理由を語る表情、そして白い紙に筆を下ろすことをためらう表情。
 見ていて、やはり同じ「トップランナー」で長期にわたる取材を受けていた宮崎駿監督のことを思い出した。

 それは、『崖の上のボニョ』の製作過程の取材だった。
 締め切り間近(もしくはすでに過ぎていた)にも関わらず、監督はラストシーンをどう描くか思案していた。
 何日も、何日も。
 そのときの表情と、井上雄彦のそれは同じものだった。

 人は、プラスや明、正の部分だけで生きてゆけず、影となる負の部分は必ず誰もが持っている。
 それをどう肯定し、手なづけ飼ってゆくか。
 真っ向勝負を挑む人もいれば、見て見ぬふりをする人、静かに対峙する人もいるだろう。
 このふたりは、きっと三番目。
 自分の中にある底なし沼のような暗い場所を、足がすくんでも覗き込める人なのだ。
 というよりも、覗き込んで自分を自分で暴いていかないと前に進めないんじゃないだろうか。
 
 それはなにかを作り出す人が多かれ少なかれ持っている性質だが、このふたりはふり幅がとても大きい気がする。
 決して楽な生き方ではない。
 自分の辛い、ふたをしておきたいところをえぐり出す作業なのだから、当たり前だ。
 でもやる。
 それはそうしないと、自分が前に一歩踏み出せないから。
 現に、番組の最後で井上雄彦は言った。
「プロフェッショナルというのは、向上し続ける人、と思います。」

 向上できるから、彼らは自分に刃物をむけられるのだ。
 深い。なんと深いのか。
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by fastfoward.koga | 2009-09-16 20:12 | 一日一言 | Comments(0)