言霊の幸わう国

新幹線と『クーデタ』

 行きは、朝から胃が重くてうちでなにも口にできなかったから、おにぎりふたつと温かいお茶を持って乗り込んだ。
 出発するとすぐにおにぎりの封を切り、ひとつ口に。
 ふたつめは胃と相談の結果、続けて口に。
 でもシートで背筋を伸ばしていないせいか、おいしくいただいたおにぎりがすぐ胃の中でどっしりし始めた。
 うむむと唸りながらも、『クーデタ』を開いて気を紛らわせた。

 そのうち1時間もしないうちに、名古屋駅に到着。
 週初めから引きずる睡眠不足は解消できていなかったから、ちょっとここらでと本も目も閉じる。
 頭の片隅では、今日のお天気なら富士山が見えるかも。
 でも眠気には勝てなかった。

 ふいに目を覚まし、外の景色にあたりをつけると思ったとおり掛川だった。
 もしや富士山が! とわざわざデッキまで行って見た。
 頭ははっきり見えていたけれどいつもの白い帽子はかぶっておらず、代わりにお腹のあたりに白い雲がかかっていた。
 物足りなさを感じつつも、しばらく眺めて席へ戻った。

 熱海あたりまで来てしまうと二度寝する気にもならず、また『クーデタ』を広げていたら、前の列に並んで座っている韓国人のビジネスマンたちが車内販売で昼食を物色し始めた。
 男ふたりに、女ひとり。
 女性がラーメンはないですか? と日本語で聞いていて、後ろの席でさすがにそれはないなあと聞かれていないわたしが小さく答えていた。
 彼らは珍しく声が大きくないので、観光客でなく日本での仕事や生活に慣れている人たちなのだろうなとそれからあまり気にかけなかった。
 が、東京駅について彼らの座っていたシートを見て驚いた。
 食べたゴミが全部置きっぱなし。
 しかも女性の座っていたところが、1番だらしなかった。
 あー残念と、元に戻されることのなかった背もたれの位置だけ、なにかの証明のつもりで戻して下車した。


 帰りは、まい泉のカツサンドを手にして乗車。
 これまた動き始めてすぐに食べ始めると、品川駅で学生らしき一団の入場。
 6、7シート後方に座ったが、賑やかさがかき消されるほどではない。
 しばらく『クーデタ』を広げたものの、わかりにく表現の続くあたりで頭に文章が入ってこず断念。
 ならばと目を閉じると、意外にもすとんと眠りに落ちた。

 眠ったのは30分か40分くらいだろうか。
 豊橋か三河安城かとあたりをつけていると、しばらくして豊橋駅を通過した。
 まだ賑やかな後方へたまにちらりと視線を向けながら、名古屋で降りろ名古屋で降りろと念じてみる。
 ホームに入ってもまだ立ち上がる気配がないように思ってガッカリしていたら、こちらが心配になるくらいだらだら通路を歩いてみな去っていった。

 そこから、わたしのすきな新幹線の空間が返ってきた。
 白っぽくてクリーンで、静かな車内。
 
 帰りに楽しめなかった分もう1回乗りたいと、後ろ髪を引かれながらも京都で降りた。
 たぶんトーキョーまでもう1往復したら、『クーデタ』も読み終えられるのだけれど。
 そうは問屋が卸さない。
[PR]
by fastfoward.koga | 2009-10-26 21:00 | 一日一言