言霊の幸わう国

シャンプーの香り

 帰りの電車で、隣に座った女の子からシャンプーの香りがした。
 それは猛烈な香りで、途中から通路側に少し体を投げ出して鼻を押さえた。
 お風呂上りじゃあるまいし。
 内心、毒々しく思っていた。

 シャンプーの香りというと、必ず思い出すことがある。
 高校3年のときのことだ。
 その1年は、3分の2が女子という男女比の悪いクラスで、年頃だったということもあるのだろうが、とにかくクラスメイトの言動にいちいち引っかかることが多かった。
 要は、居心地がわるかったのだ。
 
 ある日、選択授業で別のクラスの男子がうちのクラスに入ってきたとき、ひとこと洩らした。
「うわ、くせっ」
 ずっとその中にいるとわからないものだが、言われてピンときた。
 様々なシャンプーの匂いが教室に充満していたのだ。
 特に冬で暖房がついていたこともあって、匂いにいやな重みが出たこともあったとは思うが、なんとなくクラスに溶け込めない一因がそこにある気がした。
 そこから、わたしは自分の髪からシャンプーの匂いがしませんようにと祈るようになった。

 髪が短いから、風になびいてシャンプーの香りがするなんてことはまあない。
 でもそばを通り過ぎた人が自分のシャンプーの匂いに気づいたら、やだなと思う。

 そんなこともあり、シャンプーなどではない自分の匂いがほしいなと香水を探した時期もある。
 今は3年ほど同じものを使っているけれど、人にはどの程度香っているものなのだろうかと考える。
 こういうのは客観的にはわらかないから、確かめようもないのだけれど、たまに、気になる。
 無性に気になる。

 中学生のころは、洗濯物の匂いがその子のうちの匂いだとみんなで体操服をくんくん嗅ぎ合った。
 今はそれじゃあさすがに色気がない。

 自分の匂いが誰かの鼻腔を刺激し記憶を喚起することを、未だ待ち望む日がつづく。 
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by fastfoward.koga | 2009-12-01 22:35 | 一日一言