言霊の幸わう国

真夜中の遊園地

 今朝の通勤電車から、内田百閒の『第一阿房列車』を読み始めた。
 いつもなら本も目も閉じてしまう駅を通り過ぎ、このばかばかしさがたまらないと帰りの電車を心待ちにした。
 が、しかし。
 寄り道ついでに寄り道してしまった本屋で、数日前から目をつけていた吉田篤弘の『圏外』を急に買う気になってしまった。
 周囲の平積みより低くなったその本を、まさに金塊を掘り起こすように取り上げたあとは、一直線でレジへ。
 あとはもう待ちきれず、地下鉄を待つホームで袋から取り出して本を直に持った。
 分厚さは、伊坂幸太郎の『モダンタイムス 特別版』並み。
 でも装丁が軽く、厚さを我慢すれば片手で読めないこともない。
 ページ部分の肌触りが良く、左手の親指で何度もなぞっては小さな波を作っていた。
 読む前からこれだけ胸の高鳴る本は、少ない。
 前に読んだ吉田篤弘の『針がとぶ』のような小説を書いてみたいと思ったせいで、これもすごい出会いなのかもしれないと思った。
 でも発行日を見ると「2009年9月」となっており、どうしてもっと早く出会えなかったのかと、今まで何度も言われた陳腐な男の陳腐なセリフのようなことを頭に浮かべ、両方に軽く後悔した。
 ホームで目次、車内で数ページ読み、地下鉄を降りるとき、目の前に砂漠なのか砂浜なのか、大量の白い砂がかさこそと足元で風に掬われている絵が見えた。
 最近ずっと命題のように頭にある、自分はなにを書くのかという問い。
 ここで考えてもたぶん見えないだろうと思いながらも、だからと言って考えることをやめたらもっとわからないと考え続けている。
 それがふと、自分の書きたい小説のイメージはこれなのだと、それだけじゃどうにもならないけれど、それだけはわかった。

 京阪の特急に乗り込んだら、ただひたすらページの肌触りを楽しみながら読み進めた。
 途中同じ姿勢につらくなって首を回したとき、静かにカバンの中で潜んでいる『第一阿呆列車』を思い出し、約束を反故にしてしまった自分の尻の軽さを認識した。
 でも、浚われたきもちはもうどうしようもない。
 次の乗り換えでも『圏外』を手から離す気にならず、左手でしっかり握りしめていた。
 なにを書くのか、なにが書けるのか、なにを書きたいのか、なにが書けるのか。
 物語の間に、サブリミナル効果のようにその問いが頭を過ぎった。
 思考のメリーゴーランドは、留まることを知らない。


 今朝、くるりのHPにアップされていた岸田くんの日記を読んだ。
 会社のデスクで、つーんとなった。
 最近ずっとだけれど、涙もろくてほんとうにまいる。
 ほんとうはもっと長い日記だけれど、ちょっとだけ引用。

「過渡期を経て、新しい考え方が必要な時期に、かくあるべきモノを作らなあかんと、決死の覚悟で挑まなあかんなと思ったりしてます。

(中略)

答は出えへんけど、自分が認められたいなんて欲はさらさらなくなったけど、大切なものごとや、大切にしてくれた人たちのために精一杯音楽がやりたい。くるりを大切にしてきてくれた人たち、ほんまにありがとう。

とりあえずちゃんと食ってちゃんと寝て、きばりまーす。

ほなまたねー。」
 
 岸田くんの京都弁が、耳元で聞こえるようやった。
 特に、「ほなまたねー」がリフレインした。
 うまく言葉にできひんけど、「ほなまたねー」みたいなものが書きたいと思った。  
 ずっと前のライブのMCで岸田くんが第一声で言うた「あんなぁ~」みたいに、「あぁ、もうっ」と射抜かれたことがちょっと悔しくでも愛しくなるようなものが書きたい。
 それがいったいどういうもんかはやっぱりわからず、ただ白い砂漠が見えているだけやけど、自分の足で辿り着きたい、その砂を踏みしめたいとひたすらに願う。
 なんやわけのわからん言葉をだらだらと並べたけど、今夜も思考のメリーゴーランドは回り続ける。
 考えることをやめたら、あかん。
 前に進まな。前に。 
[PR]
by fastfoward.koga | 2010-01-25 23:05 | 一日一言 | Comments(4)
Commented at 2010-01-27 07:17 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by tammy at 2010-01-27 10:33 x
何かがつかめたようで良かったですね。
私も大まかな設定は出来たような気がしましたが、それなりに準備が必要なようで、立ち止まっています。
でもまぁ、どんな形でも進んでいくしかないですね。
頑張りましょう。
Commented by fastfoward.koga at 2010-01-27 20:06
鍵コメさん、こんばんは。
少しお久しぶりですね。お元気でいらっしゃいましたか?

息子から、来ましたねー。
ハイハイ、こちらは大阪・京都とすでに申し込みました。
いい席で見たいなあと、きもちはすでに6月です。

まだまだ寒い日が続きますね。
朝ベスパを走らせると、冷凍庫の中にいる気がします。
「凛」は、わたしの目標です。
うつむく日があっても、えいやーっと顔を上げる瞬間がすきです。

いつもいつも、励ましのお言葉、ありがとうございます。
Commented by fastfoward.koga at 2010-01-27 20:09
tammyさん、こんばんは。
何かが、と言っても、掴んだのはまだ砂(笑)。
形に捕らわれてますが、はたと考え始めは中身だよと、今日気づき自分につっこみました。

がんばるしか、ありませんもんね。
おぉ、武者震い!