言霊の幸わう国

さらばサリンジャー

 始業前、会社のデスクでサリンジャーが亡くなったことを知った。
 昼休みにネットのニュース記事を読み、まだ生きていたのかと思った。
 享年91歳。
 長生きしたんだねぇ、とどこともなく語りかけた。

 初めてサリンジャーを読んだのは、大学生のとき。
 今本棚を探してみたけれどなかったということは、おぼろげな記憶どおり、ともだちに借りたのだろう。
 もちろんそれは、『ライ麦畑でつかまえて』だ。
 すぐに思い出す、青と白のシンプルな装丁。白水Uブックスのものだった。

 初めて読んだ感触は、よくなかった。
 でも全否定もできなかった。
 ただ、「若者のきもちを代弁している」という世間の評判に頷けなかった。

 そのわりには、おそらく続けてだろう、『ナイン・ストーリーズ』と『フラニーとゾーイー』を買って読んでいる(本の中に1993年5月とサインがしてあった)。
 でもこれも、すごくおもしろいとは思っていなかった。
 こういう世界が、小説があるのだと飲み込むような読み方をしたはずだ。

 数ヵ月後に『大工よ、屋根の梁を高く上げよ シーモア-序章-』、その2年後にI・ハミルトンン著の『サリンジャーをつかまえて』、そして『ライ麦』から10年近くたってから村上春樹訳の『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を読んだ。

 思えば、わたしは『ライ麦』より『フラニーとゾーイー』などの「グラース家」の兄弟たちの話を好んで読み返した。
 サリンジャーの作品で1番すきなものを挙げるなら、『ナイン・ストーリーズ』の中の「バナナフィッシュにうってつけの日」と「小舟のほとりで」を選ぶだろう。
 わたしは、サリンジャーのちょっと人を小ばかにしたようなところがすきなのだ。

 これを書くために、本棚からサリンジャーの本をすべて抜き出してきた。
『フラニー』と『ナイン』は何度か読み返したせいかカバーが少し汚れ、ページの色も若干黄味を帯びている。

 ぱらぱら捲ると、湿った匂いが鼻についた。
 今すぐ、全部放り出して読み返したくなった。 
[PR]
by fastfoward.koga | 2010-01-29 22:16 | 一日一言