言霊の幸わう国

生きる奇跡 <後編> 鳴り続ける音楽

 朝目が覚めても、頭の中と自分のまわりには前日の余韻が残っていた。
 できることなら、そのままじいっとそれを感じていたかったけれど、それでも出かけていった。
 今日はライブ強化月間最後の、心斎橋クラブクアトロでのandymoriのライブ。
 電車に揺られながら、昨日の今日でどんなきもちになるのかと、自分でも興味があった。

 会場は、土曜日ということもありあっという間に満員になった。
 andymoriのファンなのか、対バンの「のあのわ」のファンなのか。考えなくても、判別はすぐついた。
 始まる前から、空調は効いているというのに、その熱気で首筋にうっすら汗がにじんだ。
 そばにいるのは、andymoriのTシャツやタオルを身につけた10代、20代前半の学生らしき若者たち。
 とにかく、今すぐ、じたばたとはじけたいとうずうずしているのが見て取れた。
 18時過ぎに、対バンののあのわがステージに登場。
 会場のクアトロの中に入っても、まだ昨日の余韻から覚めていないわたしは、失礼ながら照明の当たるステージに別のものを見ていた。
 そんなんだから、もちろん曲は頭に入ってこない。
 ステージを見ていてもついつい目をそらし、目障りにならないように周囲を窺っていると、斜め前には曲に合わせて歌詞を口ずさんでいる女の子。
 両手を合わせ、その指先をあご下に当てている。
 まっすぐステージを見ているその隣では、彼氏がときどきその子の顔を覗き込んでいた。
 意識の半分くらいまだ昨日に引っ張られていたけれど、その様子がとても微笑ましかった。

 開演から1時間20分、andymoriが登場。
 わたしは昨日の疲労感を引きずっていたから、今日も修行僧のようなきもちになってじっと待っていたくらいなのに、ステージに3人が現れると磁石に引き付けられたように、若者たちはどっと中央前列に詰め寄る。
 そして第一音が鳴ると、我慢できないとばかりに地団駄踏んで上に上にと手を伸ばした。
 1曲目は『CITY LIGTHS』だったろうか。
 少し先走る壮平のボーカルもギターに、ひやりとしたけれど、あとの『1984』を聴いたらついつい大目に見てしまう。
 ひと月ほど聴いていなかったけれど、やっぱりいいと思った。
 そのあとは、テンポの速い曲が続々。
『クレイジークライマー』や『FOLLOW ME』では、フロアの若者がみな小刻みに跳びはねている。
 まるでそうでもしないと電池が切れてしまうかのように。
 床はうねるように、揺れた。
 ステージでも、メンバー3人が内に抱えきれないものを外へ外へと発散しているみたいに見えた。
 初期衝動。
 みな、お腹の中にマグマがあるんだろう。
 それを少し後ろで眺めていると、その背中に、生きて歳を重ねるのはいいもんだよと語りかけたくなった。
 生きていれば、すきな音楽を鳴らし続けられる。踊っていられる。
 もしかしたら、今聴いているこの曲よりもっとすきになる曲があるかもしれない。
 生きろよー、と無性に伝えたかった。
 ラストの『SAWADEECLAP YOUR HANDS』では、会場中が熱に包まれて、だるいはずの体がふわっと浮きそうな高揚感。
 ライブの完成度が高いとはまだまだ言いがたいけれど、既存のものさしでは測れないような「押し」がある。
 あれはいったいなんなんだろう。
 その正体は、未だ掴めていない。

 アンコールでは、のあのわとのメンバーと一緒に井上陽水の『夢の中で』を演奏しライブは終了したのだけれど、ワンマンでなかった分物足りなさを感じた客席は、客電が付いてもまだ次のアンコールを求めていた。
 ステージでは着々とスタッフが後片付けを進めている。
 でも、拍手は止まない。
 誰もがためらわず手を叩き続いていると、ステージではなく楽屋に続く入口から壮平がひとりひょっこり現れた。
 鳴り止まない拍手に応えようとしたのだろう。
 お客さんの中に入っていこうとし、スタッフに制止されていた。
 離れたところから見ているからなにを言い合っているのかわからないけれど、何度かスタッフにやんわり制止され、壮平はやだよ、いいじゃんみたいな動きをし、でも結局ありがとうと手を合わせたあと、手を振りながら扉の向こうに消えていった。
 拍手が、音が鳴り止まなければなにかある。
 生きていれば、なにか起こる。訪れる。

 帰りの電車は、すでに日本対オランダ戦の中継が始まっていたせいか、思った以上に空いていた。
 京阪のダブルデッカーの2階に乗り、いつもより高い視線で窓の外を眺める。
 流れる灯りを目に映し、昨日から今日の繋がりについて考えた。
 きっと音楽は、輪っかなのだろう。
 誰かが鳴らした音が誰かの耳に届き、その誰かがまた別の音を鳴らす。
 合わせずともそれは音楽になり、時間を越えてどこかに繋がってゆく。
 今回はライブのたびに、小さな部屋で予習復習に勤しんだ。
 でもすべてを見終え、再びCDプレイヤーに収めたのは、『ファンファーレと熱狂』。
 音が鳴り出したら、ほっとした。
 ただいま、みたいなきもちになった。
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by fastfoward.koga | 2010-06-21 21:26 | 一日一言 | Comments(0)