言霊の幸わう国

海あり山あり 日本列島輪切りの旅  「旅の水に足を浸す」

★7月24日(土)
 9:08 福井駅発 ⇒(越美北線)⇒ 10:46 九頭竜駅着 
 10:58 九頭竜駅発 ⇒(越美北線)⇒ 12:22 福井駅着   -(昼食)-
 12:46 福井駅発 ⇒(北陸本線)⇒ 15:20 高岡駅着   -高岡散策-
 16:18 高岡駅発 ⇒(北陸本線)⇒ 16:36 富山駅着
 16:48 富山駅発 ⇒(北陸本線)⇒ 17:18 魚津駅着   -魚津散策(夕食) -

  ※ 高岡駅の途中下車が抜けていたので、訂正しました。


 初めにお断りしますが、長くなります。
 この調子で書いていたら、いつ終わるのか(笑)。
 我ながら途方に暮れますが、立ち止まらず書きましょう。




 旅の初日、手始めにといった感じで越美北線、通称九頭竜線に乗る。
 目的地はない。ただ行って折り返してくるだけ。鉄子魂で、そこに線路があるから乗るだけさ的に、午前中を九頭竜線に費やす。
 鉄旅の鉄則で、始発駅から乗車する場合は早めにホームに向い、とりあえず駅名表示と前から列車の写真を撮り、太陽の位置を考えながら着席。でも九頭竜線は東へ向いながらもカーブが多いので、結局どちら側に座っても暑さと眩しさでカーテンなしでは耐えられなかった。
 ワンマンのローカル線なので、てっきり車内は空いているかと思ったら、夏休みが始まっていることもあり、学生らしき引率者のついた小学生たちが山ほど乗ってきた。思わず同じボックスシートに座っていた五十代くらいの女性と、顔を見合わせたほどの賑やかさだった。
 こどもたちの声があまりに大きく、手にした文庫本はここでも集中して読むことはできなかった。陽射しを避けるために閉めたカーテンの向こうを窺うこともできず、こどもたちが降りてくれないとゆっくりもできないなとこっそりため息をついた。前の女性も同じなのか、カーテンの隙間から外を覗いてはそわそわしている。最初は見ないようにしていたけれど、人も声もぎゅうぎゅうの車内が息苦しくなって、目が合ったところからぽつりぽつりと話をし始めた。
 女性は、昔住んでいた越前大野に向っていた。いつもなら車で旦那さんに送ってもらうのだけれど、今日は電車で高校のときの友人に会う約束をしていると言う。時折、直射日光が当たらない隙を見て開いたカーテンの向こうに見える景色を見ながら、並行して流れる足羽川のことや山のてっぺんにあるお城のこと、大きな道路を中心にして変わってゆく町並みのことを話してくれた。もしかしたら、うちのハハとそんなに違わない年なのかもしれない。初めのうちにはそんな女性とカーテンの隙間から外を覗いて、あれはあそこはと話をすることに少し戸惑ったけれど、ずいぶん窮屈な思いから解放してもらった。
「旅行ですか? おひとりで?」
 そう聞かれたときはまだきもちが旅にどっぷり浸かっていないので、これからの9日間の行程をかなりはしょって、ともだちのところへ向う途中に寄り道をしていると答えた。
 すると女性は目を細め、とてもうらやましそうにいいわねえと言ってくれた。

 女性とは越前大野駅で別れ、わたしはそのまま九頭竜線の終点まで行き、十数分後に折り返す同じ列車に乗車。帰りは、いったん駅を出て買ったペットボトルのお茶をちびちび飲んでいたら睡魔に襲われ、シートにもたれて三、四十分ほど眠った。
 ほんとうは足羽川でもゆっくり眺めていたいところだったのだけれど、こどもたちに午前中のエネルギーをそっくり吸い取られてしまったのか、きもちが反応しなかった。そのせいか、再び福井駅に到着して列車を降りたときはなんだかほっとした。
 お昼は、駅ビルで越前そばを食べた。店内は込み合っているように思ったのに、さすがそばだけあって注文したらすぐに出てきた。無理のないペースで食べ進めていたわりには、予定より1本早い列車に乗れそうだ。よし、行っちゃえ行っちゃえと、足早に改札を抜けホームに停車していた列車に乗り込んだ。
 金沢駅まではそこそこ人の乗り降りがあり、車内と外をどちらもそれとなく眺めているうちに、ふと気がついたことがあった。過ぎ去る景色の中に人の姿を見つけ、さっきまで外を眺めてもつまらないと感じていたのは、この町にどんな人が生活しているのか見えなかったからだと思い当たったのだ。
 人のいる景色、いない景色。どちらも目に映るけれど、自分は、見も知らぬ誰かの姿を探しながら旅をしている。会うこともないたくさんの人がここで自分の生活をしていると思うだけで、力強いものがお腹の底から湧いてくる。
 そこから、旅は本調子になった。

 1本早い列車に乗れたおかげで、迷った挙句計画から外していた高岡駅で途中下車できた。
 2年ぶりに訪れた高岡駅は、ロータリーはまだ工事中だったけれど、改修工事がなされていてすっかりきれいになっていた。もちろん駅が整備されて使い勝手がよくなるのはいいことだ。けれど、ただひとつ、行き先表示が新しくなっていたことがちょっと寂しかった()。
 前に見たとき、素っ気なく「富山 直江津 上野 新潟 青森方面」と書かれていたそれは、青地に白の文字ですっかり細身になっていた。書かれている文字も「北陸線 富山・直江津方面」のみ。わたしをどこへでも連れて行ってくれるんだと思わせてくれたあの凛々しい面影はなくなっていた。
 看板ひとつでちょっと寂しい。そんなきもちで看板の下をくぐったというのに、外はもやもやが吹っ飛ぶくらいの炎天下。思わず駐車場のおじさんに「暑いですね」と声をかけてしまうほど。いやいやそれでも挫けはしないと、歩いて向ったのは瑞龍寺。頭の中で道筋を確認しながら、今日もまた以前のように青い芝に風がさあっと吹く姿が見られるといいなと期待で胸が膨らんだ。
 山門をくぐると、期待が裏切られなかったのがすぐにわかった。本堂はどーんとそびえ立ち、芝は青く、空も青く、雲は力強い白さでもって迎えてくれた。
 暑くて汗は滝のように流れるのに、風がそよいでいる気がする。ここにはなにかが常に吹いているのかなあ、なんて何度も空を大きく仰いだ。
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 高岡駅に戻ったあとは、宿のある魚津駅へ。
 魚津へ近づくころには、車内で海がどのくらい近いのか、そわそわしながら外を見ていた。駅から宿への道中でも、夕飯を食べるお店と海との距離をぐるぐる頭に巡らせ、荷物を置いてシャワーを浴びたら、やっぱり夕陽を見に行こうと思い立った。地図は持たず、方向だけを確認して部屋を出た。
 人もまばらな土曜の夕暮れ。斜めがけした小さなカバンだけで、手も気分もぶらぶらさせながら、夕陽を探して歩く。初めに海に出た場所は漁港だった。誰もいないその場所からは、太陽がゆっくり沈む姿が望めた。
 でもここでは腰掛けてのんびり眺めることはできないと、防波堤を探してさらに海沿いを歩いてゆく。途中コンビニを見つけ、そうだそうだとエビスビールを1本だけ買う。しばらくするとガイドブックにも乗っていた海の駅「蜃気楼」の表示を見つけ、一目散に向ったけれど、広いガレージの向こうには雲にかかった夕陽の姿。雲の大きさから見て、どう考えても太陽が再び姿を現す様子はなさそうだ。日本海側にいる間に地平線に沈む夕陽を見たかっただけに、一瞬きもちが立ち止まりそうになった。
 でも、足は止まらない。ずんずん進んで、黒いジャージのワンピースが汚れるのも気にせず、よっこらしょと防波堤に腰掛けた。周囲を見ると、二十代らしき男の子ふたりと、車で来たばかりのカップルに、テトラポットの上で釣りをする人が数人。まあ気にすることはないと、ぬるくならないうちにエビスを開けて口に含んだ。
 防波堤の上で膝を抱え、正面に輪郭は掴めないけれど夕陽を据える。雲の隙間から漏れる光だけでも、ああ充分だと思った。
 汗はかいても海風が吹くせいか、すぐに消えてしまう。じいっと何十分もそうしていたら、今こうして感じている思いを誰かと共有したくなった。周囲を見渡すと、1番近くにさっきの男の子たちがいる。できることなら、ねえねえと声をかけたかった。ひとりで見るのがもったいないというよりは、ひとりで見ていられないくらい射抜かれていた。
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 いつまででもこうしていられそうだと思う反面、陽が暮れてから来た道を戻るのは寂しくなる気がすると、まだ明るさがほんのり残るくらいで防波堤を離れた。それでも海の駅の外に出るまで、何度も振り返って空の色を確認した。
 国道をまたぎ、住宅街を抜けて駅まで戻る。その道すがらすれ違った車のヘッドライトで、空の暗さを知る。
ああ早く晩ゴハンだと宿の周辺をぐるぐる回るが、思ったように店が見つからない。あきらめかけたところで入口のドアが開いている1軒の居酒屋を見つけ、中を覗いてカウンターがあったのでえいやーっと入った。結局ふたり用の座敷があったのでそこに座り、生ビールと、とりあえず量を確認しようと白エビのお刺身と焼き茄子をと注文した。するとすぐに白エビのかきあげはどうですかと返されたので、ああこれはオススメなのだと素直にお願いしますと言った。
 白エビのお刺身はメニューに時価と書いてあるだけありおいしくて、調子に乗って他にお刺身はなにがありますかーと座敷からカウンターの中に声をかけて、結局おまかせで刺身の盛り合わせを注文した。どうして自分は大食漢じゃあないのかと後ろ髪ひかれつつ、ビールも2杯で打ち止めておいた。
 お店ではひとりでちんまり座敷に座っているものだから、どこから来たの、ひとり? と話しかけられたので、水曜日に長野の友人のところへ行く途中だと答えた。朝より少し旅気分になっていたから、答えも少し正確に言うと、板前さんもお店のおかみさんらしき人も口を揃えていいねえと言ってくれた。
 気をつけて、という言葉に見送られ店を出たあとは、コンビニに立ち寄ってから宿へ戻った。部屋ではさっき見た夕陽を思い出しながら、海とは逆だとわかっていたのに窓の外を見た。通りを見下ろすと、向かいのネットカフェの通用口に太った男の人が寝転んでいた。じっと目を凝らして見ると、相手も仰向けになってこちらを見ている気がした。そのあと何度かカーテンの隙間から見たけれど、その人はいつまでも姿勢を変えずにずっとそこにいた。
 夏だから風邪引くこともないか。そう思って、わたしはもちろんベッドで寝た。明日の朝は早起きなのだ。
 ちなみに翌朝6時、外を覗いたらさすがにその人はいなくなっていた。
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by fastfoward.koga | 2010-08-17 21:15 | 旅行けば