言霊の幸わう国

変わり目

 定時で会社を出たというのに、ビルの隙間から太陽はもう見えなかった。
 電車に乗るころ、空に赤みはなく、あとひと息ですべてを濃紺に包むところだった。
 少し顎を上げてじっと空の高いところを見つめる。
 数日前に会社の人が言った「空が高くなってきたね」という言葉を、そこで思い出した。
 暑さにだまされているけれど、確実に季節は移り変わっている。
 でも自分はその波に乗れていない。

 暑さとだるさと眠さが蓄積された、体の重み。
 眠ったら眠ったで、夢ばかり見ている。
 仕事も書くことも集中できない。
 やりたいことができないジレンマというよりは、今はやりたいことの輪郭がぼやけて呆然としている。
 首筋に、背中に、胸に汗を浮かせては、とにかくこの暑さをなんとかしてと思う。
 そんな思いに囚われながら空を見つめ、ふいに気づく。
 ほんとうは、季節に乗り遅れているんじゃない。
 ただ自分の中の時計の針を、うまく動かせていないだけなのだ。

 いつもうまく季節の移り変わりに寄り添えればいいけれど、時折こうやってふっと足を取られてしまう。
 ああもうやだやだ。
 何度やっても失敗する。
 でもつまづいて地面に体を寝そべらせたまま、考える。
 季節の変わり目って、こういうもんだよね。 
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by fastfoward.koga | 2010-09-06 20:51 | 一日一言