言霊の幸わう国

海あり山あり 日本列島輪切りの旅  「紛れ込むウォーリー」

★7月29日(木)
 -長野市(善光寺)散策-
 8:56 長野駅発 ⇒(長野電鉄・長野線)⇒ 9:15 須坂駅着
 9:19 須坂駅発 ⇒(長野電鉄・長野線)⇒ 9:48 湯田中駅着   -湯田中散策-
 11:07 湯田中駅発 ⇒(長野電鉄・長野線)⇒ 11:43 小布施駅着   -小布施散策(昼食)-
 14:04 小布施駅発 ⇒(長野電鉄・長野線)⇒ 14:12 須坂駅着
 14:28 須坂駅発 ⇒(長野電鉄・屋代線)⇒ 15:05 屋代駅着
 15:30 屋代駅発 ⇒(しなの鉄道)⇒ 15:36 戸倉駅着
 15:38 戸倉駅発 ⇒(しなの鉄道)⇒ 15:53 上田駅着  -(夕飯)-








 前日、妙高高原から長野駅に戻ったわたしは、駅の改札を出てある人を探した。その日は、大学の学友(と言っても年上で頼りになる先輩)のIさんのご自宅に泊めていただくことになっていて、奥さまのTさんと小学生の息子さんが迎えに来てくれていたのだ。Tさんも息子さんも2月に京都でお会いしていたので、見つけるのに時間はかからなかった。
 旅の行程を決めたあと、Iさんには「そちらへ行きますので、夜飲みにでも」というメールを送ったのだけれど、それなら泊まってってと言っていただいた。ちょうど旅の真ん中。ひとり旅のガス抜きに少し話し相手になってもらおうかなと、お言葉に甘えてお邪魔させていただくことにした。
 その夜は、帰りがいつも20時過ぎるIさんをおうちで待ち、みなで近所の居酒屋さんへ。飲みながら、長野という町についていろんな角度から捉えた話を聞かせてもらっていたのだけれど、これがまたおもしろい。旅先でそこに住む人からその土地の話をいろいろと教えてもらうと、主観でだけ捉える印象とはまた違う角度からその土地を知ることができるので、長野県をまだまだ旅をするわたしにとっては、とても貴重なお話だった。
 お店を出ておうちに戻ってからもまだ話は尽きず、寝たのは0時を回っていた。翌日はTさんに善光寺さんのお朝時の「お数珠頂戴」に連れて行ってもらうことをお願いしていたので、起きたのは5時半。とりあえずの支度だけ済ませで向ったのに、なんとか間に合ったというくらいのタイミングだった。
 そのあと、Tさんが作ってくれたおいしい朝食をいただき、出勤前のIさんに駅まで送ってもらい、至れり尽くせりで長野市内を離れた(その節は、I家のみなさま大変お世話になり、ありがとうございました)。

 長野駅からはJRには乗車せず、長野電鉄で湯田中を目指した。
 この日は、9日間で唯一雨が降った日。と言っても雨は本降りになることはなく、降ったりやんだりをくり返し、降っても細かい雨で傘をさそうかどうか迷うくらいのものだった。
 それでも、そこまでの5日間浴びた日差しが厳しくて仕方なかったので、これは旅の中休みなのだろうと、どこか眠気の残るぼんやりした頭で考えながら、輪郭のぼんやりした流れる景色を眺めていた。
 須坂で乗り換え、湯田中までは1時間弱。初めて乗る路線で眠れるほど時間の余裕はなく、あっという間に目的地に到着した感じがした。
 ガイドブックを捲り、なんとなく向った湯田中。立ち寄り湯には入りたいなと、ざっくりしたガイドブックの地図を頼りに渋温泉を目指したら、道路標示に惑わされ30分弱で着けるところを倍ほどの時間をかけてしまった。
 なにやってんだかと、何度もリュックを背負い直したけれど、さすがに何度もこういうことをやっていると、もう自分を嫌になることもない。これも旅の醍醐味。そう思って、ひとり笑えるようになった。
 温泉街にやっと辿りついたころ、雨はシトシト音をたて始めた。帽子をかぶっているし、洋服も少々濡れてもかまわないようなもの。リュックも防水スプレーはかけているし、そう簡単に水が滲みこむこともないだろう。そう考えて、初めは外ポケットに入れたデジカメだけを手に持ち、ケースごと雨に濡れないようにしていた。
 が、しかし。おみやげ屋さんの大きなガラス戸に映った自分をちらり見て、やっぱり傘くらいさそうかと思い直した。小さな折りたたみの傘を、パンパンのリュックから取り出す。広げてから、同じようにガラス戸でその姿を見たけれど、たいして変わりはないように思った。
 30度を下回るという予報どおり、うだるような暑さはない。でも7キロほどあるリュックを背負って1時間近くあるけば汗もかくし、喉も渇く。右手にデジカメ、左手に傘を持ち、それでもアクエリアスが飲みたいと自販機の前でジタバタする。ああもうどうでもいいと、傘を折りたたんで脇に挟む。取り出し口からアクエリアスのペットボトルを掴み、自販機を囲んでいる枠の屋根でまるで雨宿りできているかのようなふりをして、半分くらい一気飲みした。
 そんなふうにもたもたした渋温泉。着いてしばらくしたところで、厄除けの外湯はみな宿泊客しか利用できないことを知った。なあんだと、傘はもう閉じてしまい、アクエリアスを飲みながら駅へと戻った。そして駅舎の脇にあった、その名も湯田中駅前温泉・楓の湯でひと風呂浴びた。
 脱衣所に入ると、中はおばあちゃんばかり。みな近所に住んでいる地元の人なのだろう。毎朝恒例のご挨拶といった様子の会話が聞こえてきた。
 こういうところは地元民と観光客の交流の場ではあるものの、平日の真昼間にひとり入ってきたわたしは圧倒的不利。誰もよそ者扱いしたりしないけれど、できるだけ愛想よく「こんにちは」と言いながら中に入った。
 まるでサロンのように会話を楽しむ空気を邪魔しないよう、端っこのロッカーに荷物を入れる。すると今お風呂から出たばかりのおばあちゃんが、ロッカーの鍵を何度も回してガチャガチャやっている。扉の立て付けが悪く開かないだけなのだけれど、それに気づいていないらしい。鍵がかかっていないのを確認し、わたしは横から力を入れて扉を引いた。するとパカッと扉が開き、その様子に脱衣所が一瞬だけ湧いたのがおもしろかった。

 湯田中の次は、小布施。駅に着いたころがちょうどお昼どきで、そばを食べようとお店を探した。
 小布施では、有名な栗のお菓子をおみやげに買おうと思っていたけれど、お昼を食べたら一気に購買意欲が下がり、あまりのお店の多さもあり、これだけはと思っていたお店だけに立ち寄るに留まった。
 これがこの旅1番の後悔で、あとから口にした栗のおいしさに、時間をかければよかったと思った。
 けれどそのときは、無駄に歩いた渋温泉のツケがここで回ってきて、リュックの重みとぼんやりした頭痛にきもちがだらけた。列車の中で1時間ほど眠れれば回復できそうなのになと思っても、この日は乗換えが多く、どこも乗車時間が細切れで下車駅を気にせず眠れそうなタイミングはない。
 もう仕方ない。とりあえず先を急ごうと、須坂行きの電車を待った。
 このとき、雨は止んでいた。
 ホームのベンチに座っていると、小さなホームの屋根の下をさらってゆくように風が吹いた。ずっと外は暑くて、でなければクーラーが効いていて、そのどちらでもない心地よさに、そのときわたしはうっとりしていた。そしてハガキを1枚書き、カバンの中にしまったまま電車に乗った。投函したのはその日最後に電車を降りた駅で、そのハガキには「今小布施にいます」と書いた内容とは違う消印が残されることになった。
 ただそれだけのことなのだけれど、思い出すとふと心が緩む、この旅の一場面。

 長野鉄道からしなの鉄道に乗り換える屋代駅では、20分ほどホームで電車を待った。そこからは、雨が薄くかぶさる山の稜線が見えていた。文庫本をいったん広げたものの、目の前の無声映画のような景色に視線が吸い寄せられた。
 ゆるい空気に、大きなゆりかごにでも入れてもらったら、すうっと眠りに引き込まれてしまいそうだった。
c0047602_23565253.jpg
(屋代駅ホーム)

 そこから1度電車を乗り継いで、宿のある上田駅に到着したのは15時53分。予定よりも3時間以上早かった。
 その日の宿は、ありがたいことに温泉のあるところだった。大浴場だけでもうれしいところが、チェックインして中に入ると6畳ほどの畳の部屋だった。ふとんはすでに敷かれていて、今すぐ寝てくださいと言っているようなものだと、着ていたものをまさにバーっと脱ぎ捨てて、部屋についていた小さなバスルームで簡単にシャワーを浴びた。
 荷物は散らかしたままごろんと横になったらけれど、頭が妙に冴えて軽く昼寝もできそうにない。これはうだうだせずに頭を切り替えて、爪が欠け始めていたので欲しかったやすりと、ついでに今日は部屋で夕飯を済まそうと食事の調達に駅前のスーパーに向った。
 爪やすりをドラッグストアで、スーパーではビールとおつまみを買い、あとはロータリーの反対側にあったマクドナルドに寄ろうと思っていた。
 スーパーでは、カゴを片手にレジの列に並んだ。なにも考えず、持っていたエコバックを使おうとレジ袋を断ると、店員さんに「2円お引きします」と言われた。
 夕方でどの店も込み合っている。
 みな買い物を済ませたら、うちに帰るのだ。ただの旅人のわたしも、そこでは同じようにどこかに帰るような気がしていた。その土地の人の中にうまく紛れ込んだウォーリーのように。
 駅前をひと回りして重くなったエコバックを提げ、宿に戻る。それでも1日背負ったリュックに比べれば、軽いものだ。そのためなのか、1日中感じていた頭の中のぼんやりは薄らいでしまった気がした。
 フロントで鍵をもらい、本館にはひとつしかない大浴場を使いたいと申し出るとおじさんはにっこり笑った。
「チェックインされているのはお客さまだけですから、内鍵をおかけになってお入りください。」
 部屋に戻ったわたしは大急ぎで支度をし、大浴場に急いだ。8畳ほどのお風呂にひとりきり。うれしくなって泳いだり浮かんだり、いつもより長風呂になった。
 お風呂を上がってもまだ18時半。そこからはニュースを見ながらゆっくりビールを飲み、冷めたチキンバーガーを食べた。お腹が落ち着いたところで、散らかし放題にした部屋を片付けていたら、ずっと続いていた旅の高揚感が少ししおらしくなった。
 片付けイコール荷造り。折り返す旅に平常心を取り戻し、翌朝、また詰め込んだ荷物を背に次の町へとわたしは向う。
[PR]
by fastfoward.koga | 2010-10-02 23:58 | 旅行けば | Comments(0)