言霊の幸わう国

吠えよ、歌えよ

「あと1日、あと1日。」

 そう念じて、無事その1日を終えられると思っていたら。
 最後の最後、残り時間7分で爆弾が落ちた。
 面談の中で上司が切り出した話に、気を緩めると途方に暮れて泣き出しそうになった。
 
 向かい合って座った席を、先に立ったのはわたしだ。
 捨てゼリフに近い言葉と軽い睨みとで、この話を終わりにしたのは自分のほうだと示したかった。
 それから数10分後会社をあとにし、すっかり暗くなった中を駅まで歩く間、ごちゃまぜになった感情をどうするべきか考えながら歩いた。
 あまりに必死になっていたから、時には思ったことを声に出して言っていたくらいだ。

 現実を受け止めようと、起こった出来事をもう1度思い返した。
 すると、やっぱり途方に暮れて涙が滲んだ。
 暗がりだから、下を向いていれば誰にも気づかれない。
 でも、泣くのは悔しかった。
 悔しいと頭に思い浮かべた人物に対して、ぎゃふんと言わせてやりたいと思った。
 ざまあみろ、と言ってやりたかった。
 でもそんなことをしたら迷惑をかけてしまう人もでてくるし、だいたい自分のきもちがあとくされなくすっきりするわけがない。
 だったら、そんなことをしても意味はない。
 今はただ、誰かに、次から次へと溢れ出るこの感情を共有してほしいと思った。
 いろんな顔が頭に浮かんだ。
 でも、ただ愚痴るだけではなんの解決にもならない。
 どうやったらこの渦巻く感情を沈めることができるのかと考えたところで、おさめる必要などないのだと思い直した。
 無理に消すことはない。
 他人様にやつあたりさえしなければ、持っていたってかまわない感情なのだ。
 そう考えて、うつむき加減になっていた顔を持ち上げた。

 駅のホームで、気を取り直して上司とのやりとりを反芻した。
 奥の奥にあるものにじっと目を凝らすように、事の本質を見極めようとした。
 特急がホームに滑り込む寸前で、自分の中にある感情のひとつ、怒りの理由がわかった。
 上司は、これから今以上に輪をかけてつらく厳しくなる状況について説明する間、1度も自分を主語にして話をしなかった。
 いや、1度だけあった。
 それは、困ったらさらに上の上司に判断してもらえばいい、という言葉だった。
 わたしは、上司が他人事のように、自分をどこか別の場所に置いて話をしたことに怒ったのだ。

 答えがひとつわかったところで、きもちは少し落ち着いたように思えた。
 でもしばらくすると、あさっての試験を控えて開いていた本から視線は宙をさまよった。
 これくらいじゃおさまるわけないか。
 そう心の中で言って何度か窓の外をぼんやり眺めたながらも、本は閉じないまま乗り換え駅に着いた。
 運よく空いていたシートにするりと腰を下ろし、また本を開く。
 2駅ほど過ぎたとき、隣のスーツを着たおじさんの手元にふいに目線がいった。
 おじさんの手には、iPod classic。
 曲を聴きながら、わずかに上半身を揺らしている。
 耳を澄ますと、かすかにリズムだけが聴こえてきた。
 気になってもう1度おじさんの手元を見た。
 iPodの画面には、『はがゆい唇』という小さな文字が見えた。
 タイトルを確認しておじさんの揺れを横で感じていたら、思わずふふふと笑いが洩れた。
 
 幸せそうで、うらやましい。
 やっかみなしで、そう思った。
 そう思ったら、自分が今少し幸せな気がした。
 わたしも今夜は歌ってみるか。
 静かな部屋で自然と口をついて出たのは、くるりの『JUBILEE』だった。
 さすがに明るい曲は歌えない。
 でも、見てろよ、次は吠えるように歌ってやるとお腹の底から思う、今日この夜。
[PR]
by fastfoward.koga | 2010-12-03 23:41 | 一日一言 | Comments(2)
Commented by kimamaziyuu at 2010-12-04 11:53
こんにちは。僕の最近のテーマソングは「彩り」です。
Commented by fastfoward.koga at 2010-12-04 22:55
kimamasiyuuさん、こんばんは。
『彩り』、you tubeで確認しました。
ミスチル、久々に聴いたなー。