言霊の幸わう国

海あり山あり 日本列島輪切りの旅  「帰り道の景色」

★8月1日(日)
 -豊川散策-
 9:38 豊川稲荷発 ⇒(名鉄・豊川線)⇒ 9:49 国府駅着
 9:53 国府駅発 ⇒(名鉄・名古屋本線)⇒ 10:38 名鉄名古屋駅着   -(昼食)-
 12:00 名鉄バスターミナル発 ⇒(高速バス)⇒ 14:10 京都深草着 






 旅の最終日は、思わずおののくほどの晴天。今日も暑くなりそうだと、空の色を見て思った。
 この日の予定は、ホテルのそばの豊川稲荷にお参りをしたあと、名古屋駅に向って帰路に着くだけ。あまり早くチェックアウトしても時間を持て余すだけなので、必要以上に時間をかけ荷物をまとめた。
 リュックだけ預かってもらい、ホテルを出る。身軽な体でぶらぶら歩いているだけなのに、額や首筋にすぐ汗が滲んできた。もう何日もこんなふうにあちこちの町を歩いてきたというのに、なぜかこの日の朝の陽射しは耐えがたかった。今すぐ陽射しの当たらない、クーラーの効いた涼しい場所に逃げ込みたい。そんな思いで足を一歩一歩前に出していた。
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 でもお稲荷さんに、そうそう日陰があるわけがない。広い境内を、文字通りふらふらしながら歩き、時折空を見上げた。
 ここは初めて来る場所。今まで1度も来たことはないし、デジャヴのように感じる懐かしさがあるわけでもない。そんなふうに自分の立ち位置は充分理解できているはずなのに、ふとどこにいるのか、どこに行こうとしているのか見失いそうな感覚をほんの少し感じた。
 まずは本堂で手を合わせ、小さな社も順々にお参りする。境内をひと回りしたころには暑さにくらくらしていたけれど、最後にこれだけはとおみくじを引いた。番号は二十五番。これは自分にとっていい番号なのかどうか軽く思案してから開くと、そこには「吉」の文字。これでほっとひと息。きもちよくここを離れられるなあと思った。
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 ホテルへ戻り荷物を受け取ったあとは、まっすぐ名鉄の豊川稲荷駅に向った。改札をくぐって時刻表を見ると電車は出発したばかりのようで、ホームはがらんとしていた。豊川稲荷駅は始発駅だけれど、次に出発する電車はまだ到着してない。ホームのベンチで、傍らにリュックを置き、しばらくぼんやりした。
 間もなく電車は、僅かな人を乗せホームに滑り込んできた。ドアが開けっ放しだとは言っても中のほうが涼しいだろうと、わたしはすぐに乗り込んだ。
 時間になり走り出した電車は、各駅停車で次々人を乗せてゆく。車内に人が多くなるにつれ、わたしの旅は前に前にと進めていた矢印をUターンに変えていった。豊川稲荷でお参りしているときにはあったわずかながらの高揚感も、国府駅で名古屋本線に乗り換ると完全になくなっていた。
 あとはうちに帰るだけ。頭でも心の中でもそう言葉にはしなかったけれど、言わなくてもわかるとばかりに、シートに腰掛けると自然にまぶたが重くなった。わたしはリュックを膝の上に乗せ抱えながら、眠りに落ちていった。
 名古屋駅に着くと、1時間少しほどの間に高速バスのチケットを取り、買いそびれたお土産を探し回って、最後に前日から決めていた味噌煮込みうどんを食べた。もうやり残したことはない。それでもバスに乗り込んでから、しばらくはあがくように流れる景色にそそられることはもうないのかと、いろんなものに視線を投げかけた。
 名残惜しんでも、じきに景色も見慣れたものになる。そうこうしているうちに、頭の中はうちに着いてからの荷ほどきのことばかりになっていた。

 高速道路は、日曜日のせいなのか流れが悪い。ここまで来ると早く帰りたくなり、わたしは予定を変更してひとつ手前の高速に設置されたバス停で下車した。反対車線には、10日前に乗車したバス停がある。映像を巻き戻すように、駅へ向かいいつもの電車に乗った。
 電車に乗っているとき、友人からメールが届いた。もううちに帰ったのか、そんなことが書かれていたから、まだあと少しと返信しようとカーソルを何度か行きつ戻りつさせながら、最後に送信ボタンを押した。
 携帯から視線を上げると、線路際にいくつも並ぶ家々。この数日見てきた景色とはやっぱり違っていた。でも太陽の光に照らされて、普段とは違う時間に見ているせいか、明るく清々しく目に映った。
 乗り換えるのが面倒だったので、遠回りになるけれど少し先の駅まで行ってバスに乗った。リュックを傍らに置いたせいで、膝の上は空っぽだ。なんだかスースーするなあと思ったところで、バスは大きなカーブを描く高架にさしかかった。
 視界が大きく開き、目の前には宇治川と堤防の濃い緑が現れた。これもいつもの景色だ。でも、ぐっときた。
 旅じゃなくても、見慣れた場所でも心が揺さぶられることは確かにある。旅だけが特別なものを与えてくれるというわけではない。
 でも、それがわかってもわたしは何度でも旅に出たいと思うし、何度でも旅に出る。
 だったらそれが、自分にとってのひとつの答えなのだ。
 心の中で、力強く、そんなことを思っていた。

 ― おわり ―
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by fastfoward.koga | 2010-12-29 21:32 | 旅行けば | Comments(0)