言霊の幸わう国

 新しい部屋に引っ越すとき、頭を過ぎらないではなかった。
 喪服を持ってゆくかどうか。
 持ってゆくとすぐ着るような、持っていっても無駄になるような、緩く考えた結果、結局決断できずに持ってこなかった。
 それがひと月も経たないうちに実家に取りに戻ることに。
 千里眼でもないのだから、そんな些細な決断ひとつにとらわれてしまうこともないのだけれど、ひとり部屋にいると人生の復習をしてしまう。

 日曜日、転居案内のハガキを作っていた。
 ずぼらして数人の友人の宛名は手書きでなく、シールにプリントした。
 事故に遭った友人も、そのひとつだった。
 昨日、だんだん暗くなる部屋でその宛名に書かれた名を何度も見た。
 何度見ても彼の名で、今日はそのハガキに切手を貼った。
 それはポストには入れず、棺の中に入れてほしいとお願いするつもりだ。

 今日は仕事の合間に彼のことを思い出しては、仕事の手を止めた。
 止まった手は、わたしが意志を持って動かした。
 止まらず動く時間。
 明日はやって来る。
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by fastfoward.koga | 2011-03-28 23:52 | 一日一言