言霊の幸わう国

銀河鉄道

 残業中、部長の態度にカチンときた。
 せめてもの抵抗で、打ち合わせのときにはいつもより低い声を発し、話さないときは能面のような表情をしていた。
 4月はまだ始まったばかり。ここでくたばってはならぬ。先は長い。
 胸のあたりにたまった熱いものを長い息で吐き出し、申請していた残業時間を過ぎたらさっさと会社を出た。
 今、わたしは卒業制作の小説の語りについて悩んでいる。
 一人称にするか、主人公寄りの三人称で書くか、はたまた天の声のような三人称にしてしまうか。
 課題に集中できずにそんなことを悩むだけ悩み、結局数週間も結論を出せない自分をどうにかして突き放したかった。
 けれど駅までの帰り道、ふつふつと湧いた部長への不満を発散するために早足で歩いていたら、チャレンジしなくてどうする! と突然自分を鼓舞する声が聞こえた。
 毎日、沈んだり上がったり。
 今はもう少し心静かにじっとしていたいのだけれど、仕事も勉強も正直そんな猶予はない。
 目の前のことをただやるだけ。
 そう言い聞かせる日々。
 早足で歩いたおかげで会社を出てからも用事をとんとん済ませ、乗りたかった特急に乗ることができた。
 空いている席を陣取ったら、課題の参考にと思って今朝カバンに入れた単行本をすぐさま開いた。
 食い入るように文字を追い、ずいぶん長い間本の世界にどっぷり浸っていたと思ったのに、中篇の作品を読み終え顔を上げると、外にはなんだまだこんなところかと思うような景色が映っていた。
 山の稜線に、高速道路を走る車のテイルランプ。
 特急は、川沿いをカーブを描いて走っていた。
 最後尾の車両に座るわたしの場所からは、先頭車両から洩れる灯りが見えた。
 まるで、メリーゴーランドみたいだと思った。
 今見ている景色も最近の自分も。
 ぐるぐるぐるぐるきもちは回り、かと思ったら、下に下がったり上に上がったり、せわしなく動いている。
 でもすぐに、あ、違うと思った。
 同じところを回っているようで、わたしの時間は特急電車のように前に進んでいる。
 老いという荷物を少しずつ背負いながら、速度を落とし、でも間違いなく前方へと体は動いている。
 そう気づいたら、久しぶりに体の力が抜けた。
 前に後ろに線路が続いていても、列車はその瞬間一方方向にしか進まない。
 それが前だとわたしが思うなら、それが前だということなのだ。
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by fastfoward.koga | 2011-04-05 22:58 | 一日一言 | Comments(0)