言霊の幸わう国

メモリー残量

 焼肉を食べさせてくれるというので、実家に帰っていた。
 ベスパのエンジンをぶるんぶるんさせ、実家に帰るときはいつも橋を渡る。

 川を越える。
 また川を越え、帰ってくる。

 橋を渡るときに見る景色が、いつか自分の原風景になるのだろうか。

 この間電車に乗っていたら、鼻腔を刺激する匂いに出会った。
 あぁ、なんだか思い出しそう。
 この香りは、なんだっけ。
 誰だっけ。
 記憶が遡ることができる場所へ導くように、小さく何度か息を吸い込んだ。
 
 思い当たる顔を、記憶の台帳と照らし合わせた。
 でも、どこのページでも指は止まらない。
 結局誰の匂いだったのか思い出しはしなかったけれど、自分がその人に片思いをしていたことは間違いない。

 最近は少し目にしなくなった「ぽぽぽぽーん」のCMは、胸の弱いところに電流を走らせる。
 ひとり暮らしを始めて、震災が起こって、ともだちが亡くなって。
 台所の流しの前の蛍光灯を頼りに料理をする自分。
 それは決してクリアなものではなく、漠然とした薄いぺらぺらなものなのだけれど、記憶として残ってゆくのだろう。

 友人が亡くなったときに代替機で使っていた真っ赤な携帯を、わたしは一生持たない。
 
 うまくは言えないけれど、記憶ってきっとこういうもの。
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by fastfoward.koga | 2011-04-29 23:51 | 一日一言 | Comments(0)