言霊の幸わう国

進め進め

 着替えをすませたところで、心は決まっていた。
 その決意が、家を出ようだったのか、ここを離れようだったのかわからないけれど、とにかく周囲に気づかれる前にときもちは急いだ。
 身につけたのは黒いワンピースに、黒のレギンス。
 その姿を初めに見つけたのは、兄だった。
 でもわたしの目に映ったのは、男ではなく女だった。
 まっすぐすとんと落とした黒髪の女性だった。
 その目をあまり見ないように、足早に部屋を出た。
 玄関では、逃亡するにはあまりに身軽な格好と荷物の自分に思わず自問自答し、履いてゆくならと一番馴染んだ先のとんがった黒い革靴を選んだ。
 早く早くと、気はあせった。
 白いベスパにまたがったわたしは、果たしてヘルメットをかぶっていただろうか。
 黒いマフラーを手に、わたしを呼ぶ母の声。
 その手の中にある毛糸のマフラー。
 そこで初めて自分の首元がすーすーしていることに気づき、その肌寒さにこの先心細さを覚えそうな予感がしたけれど、エンジンをふかした。
 母と目が合う。
 小さな瞳が、悲しんでいるように見えた。
 でもわたしは母を避けるようにハンドルを切り、アクセルを回した。
 手を伸ばせば届いたはず。
 でも母は、そうはしなかった。
 わたしは、母の脇をすり抜けた。
 通りを右折すると、道路に座り込んだふたりの男性の姿が見えた。
 赤い洋服の男と青い洋服の男。
 すごく酔っ払っている男と、少し酔っている男。
 からまれそうな感じはしなかった。
 でも話しかけられたくはない、そう思った。
 男たちが座り込んでいる右側は歩道、左側はなぜか川になっていた。
 面倒なことには巻き込まれたくないと、なぜかわたしは男たちすれすれの左側を選び、ベスパごと川に落ちた。
 タイヤが水に沈み、バランスを崩し横倒しになって左肩から水に浸かった。
 なぜだろう。
 結果を予想していたかのように、嫌悪感も反省も後悔もなかった。
 あーあ、と体はスローモーションで沈んだ。

 今朝そんな夢を見て目が覚めて、時計を見ると4時50分だった。
 手の甲で首元をぬぐうと、じっとりしていた。
 逃げるように家を離れようとした感情がまだ胸に残り、しばらく呆然とした。

 久しぶりに見た夢のリアルさに、なにを意味するのか気になって「バイク、黒、靴、母、川、逃げる、落ちる」をキーワードにして夢占いで検索をかけた。
 原動力、自立、逃避、恋愛の転機、変調、不安。
 夕べ友人と交わしたメールの内容と月9ドラマが見事に刷り込まれていた。

 並べてみただけでは、吉凶どちらを告げる夢なのかわからない。
 けれど、黒のキーワードにはこんなことが書かれていた。

 黒は不吉なことを表わす。でもそれを乗り越えるパワーを持っていることも示している。
 自分がその黒からどんなことを感じたか。自分なりの解釈を。

 夢の中でわたしが自分が身につけた黒から感じていたのは、意志の固さ。
 数ミリの迷いを退ける強さ。

 だから、前に。
 今、アクセルをふかせ。
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by fastfoward.koga | 2011-05-10 22:19 | 一日一言 | Comments(2)
Commented by calligraphy_m at 2011-05-11 19:08
夢でよかった。
昨晩は蒸し暑かったから、眠りを妨げられたのでしょうか。
今宵は幸せな夢でありますように。

お葉書届きました。わざわざどうも
ありがとうありがとう!
Commented by fastfoward.koga at 2011-05-12 20:29
calligraphy_mさん、こんばんは。
夢でよかったです、ほんまにほんまに。
昨晩はともだちと飲んでいたので、夢も見ずに寝ました。
今晩は、睡眠不足でまたぐっすり眠れそうです。

こちらこそ、小鳩ちゃん、ありがとうございます!