言霊の幸わう国

いっぽ

 ガラーンとした飾り気のないステージを、ポールにもたれながらぼんやり見ていた。
 あまり早く飲んでしまうとやることがなくなってしまうと、会場に入るまえに手にした缶ビールはちびちび飲んだ。
 右隣は、男の子のグループ。左隣は、チケット余りました、いりませんか? で知り合ったらしい男女ふたり組。
 両方の会話に耳を傾けながら、1時間をじっと待った。

 8月24日(水)。
 なんばHatchでのくるりのライブは、正式に5人体制になってから初めて見る。
 正式に、と断りを入れるのは、6月の初めにロッキンオンジャパンのイベントで見たときも同じ5人だったからだ。
 でもそのときは、一緒にステージに立っている3人がメンバーになるとは思ってもいなかったから、ホームページで加入が発表されたときは思わず叫び声を上げた。
 驚きというより、衝撃。
 その次に来たのは、期待と不安。
 それはひと月以上経っても消えることなく、その日までに体の中に蓄積された疲労と睡眠不足と混じりあい、最後は乳白色の世界へと連れていかれるようだった。

 定刻より15分ほど遅れて、ステージは暗くなった。
 多くの待ちわびた人たちの声と拍手がわたしの頭を越えて、ステージに飛ぶ。
 先頭で出てきたのは、ファンファンだったか、岸田くんだったか。
 どっちにしろ、会場は岸田くんの髪型を見て失笑した。
 まるで中学生が寝坊して寝癖がついたまま、家を飛び出してきたかのような頭。
 戸惑う笑いとどよめきに、岸田くんは「オレの髪形見て、笑ろたやろ」と、歌い始める前に言い放った。
 それで会場は大爆笑。
 さとちゃんはいつものように、少し後ろのポジションで困ったように笑っている。
 ああ、いつものくるりだわあと、心の片隅で思っていた。

 みながセットポジションにつくまで、いつもより少し長かった気がした。
 それはわたしが1曲目なにをやるのか、それよりも第1音がどんなふうに響くのか、固唾を飲んで待っていたからだろうか。
 息を吸って胸を少し高いところにキープするようにして澄ましていた耳に届いたのは、甘いギターの音色。
 1曲目は、「キャメル」だった。
 一緒に口ずさんでいたら、数10分前までぼんやりしていた頭はいつの間にか霧が晴れたようにスッキリしていた。

 2曲目は、「ハイウェイ」。
 岸田くんがとにかく楽しそうにギターを弾いている。
 その岸田くん越しに、間奏でトランペットを吹くファンファンを見ていたら、その音と立ち姿が微笑ましくてつい笑顔になった。
 すると、背を向けていた岸田くんがくるりと振り返った。
 彼も笑っていた。
 そのとき、目が合った。
 たぶん、彼もわたしと同じきもちだったんじゃないかと、その一瞬で思い込んだ。

 3曲目は、「シャツを洗えば」。
 そこまできて、あーどうしてわたしが聞きたい曲ばかりやってくれるのかと思い、いやいやどうしてわたしが自分でもわかっていなかった今日、今、この瞬間、わたしが聞きたい曲をやってくれるのだろうと、うれしくなった。
 
 そのあと、「さよならリグレット」、「最終列車」、「さよならアメリカ」、「旅の途中」と続いてゆく。
 岸田くんはよく喋り、新しいメンバーを紹介をし、次々曲を演奏する。
 6月見たときにはまだぎここちなさもあった5人のくるりに抱いていた心配なんて、どこ吹く風。
 気づくと違和感もなくなっていた。

 MCを何度か挟んで後半戦。
「温泉」、「飴色の部屋」、「奇跡」のあとは、新曲やります、と5人になってから作ったらしい「いっぽ(表記不明)」。
 5人それぞれが持ち味を出せるように構成されたこの曲は、微笑ましくて思わず目を細めてステージを見ていた。

 続いて、「ブレーメン」。
 この曲は6月のイベントの1曲目で、新メンバーの田中くんのドラムがすごかった。
 1発目でどーんと響くそのリズムに、ほおっと声を洩らしたくらいだ。
 この日はその勢いはなかったけれど、逆に余計な力みがなくなって、5人の作る音楽の中にうまくおさまった感じがした。
 これもまたよし。
 そんなきもちになった。

 ステージは最後にもうひと盛り上がりで、「コンバット・ダンス」、「ワンダーフォーゲル」。
 このあたりで控えめだったギター・吉田省念氏が徐々に前に出始め、わたしの隣にいた男の子たちをギターで煽っていた。
 そして本編は、涼やかに響く「リバー」で終了。
 
 アンコール前は、恒例のさとちゃんの物販紹介。
 冬のツアーではパーマをかけていた髪はすっかりさらさらに戻っていた。
 そしてその短めの髪を振りながら、叫んだ。
「僕は知ってるんですー。ここにいる人がみんなベストアルバムを買ってくれたことも、このライブに応募してくれたことも、チケット代を払って来てくれていることも、知ってるんですー」
 その言葉に、客席はどっと湧いた。
 会場全体が、楽しいという感情にすっぽり包まれていた。

 アンコールは、「お祭りわっしょい」、そして「もう1曲やらせてください」という岸田くんの言葉で始まった「ばらの花」。
 この日は2度目のアンコールはなく、「ばらの花」の余韻をたっぷり残して終了した。
 2時間未満の、最近にしては珍しい短いステージ。
 でも満足感はいっぱいだった。


 次は、開催5年目を迎える京都音楽博覧会。
 梅小路の空の下、新しいくるりでもって、これまた楽しめることでしょう。
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by fastfoward.koga | 2011-09-05 22:21 | 一日一言