言霊の幸わう国

遅効の産物

 欲しかった『幅書店の88冊 あとは血となれ、肉となれ』を買った。
 著者は、ブックディレクターの幅允孝氏。
 以前から幅さんは「本は遅効の道具」と言っているが、その人が選ぶ本がどんなもので、それをどんな形の本にしているのか、とても興味があった。
 
 真っ青な表紙に、赤い帯。表紙を開くと見返しは鮮やかな黄色。
 この3色にまず目を奪われる。
 栞の紐は赤、そしてその紐が取り付けられている花布という部分が、白と水色のギンガムチェックになっているところにきゅーんとなった。

 中身はというと。
 ページ数には使用されているのは、珍しい漢数字。
 なにより1冊1冊紹介される本によって、ページのレイアウトを変えていることにこだわりを感じる。
 ところどころ写真が入ったり、文字フォントも大きくなったり、小さくなったり。
 モノクロか一辺かと思ったら、カラー刷りが差し込まれていたりもする。
 あぁ、この人は、この人だけじゃなく、この本を作った人たちは、みな本がすきなんだなあと思った。

 大学のテキスト課題で、小説を批評するというものがある。
 批評する作品は自分で選んでいいのだけれど、春先にテキストを読み終えたあと、わたしがひとり暮らしの部屋の書棚から抜き出したのは、白岩玄の『空に唄う』だった。

 どうしてその本を選んだのか、内心自分でも不思議だった。
 でも本当に不思議なのは、自分がそのとき不思議だと思ったことだろう。
 いつだって、本を選ぶことに理由など考えたことはなかったのだから。

 その理由に気づいたのは、レポートも書けずじまいで数ヶ月たったころだった。
 3月に亡くなった友人とよく3人で一緒に飲んだ友人と、話した夜。
 ひとりになったあと、今がそのときだとばかりに答えを知った。
  
 白岩玄の『空に唄う』は、住職の祖父と共に実家の寺で葬儀を執り行った、亡くなったはずの女の子が見えるようになった20代前半の男の子が主人公だ。
 なぜ自分にだけ彼女が見えるのか。
 わからないけれど、見えるのが自分だけならなんとかしてあげたい。
 主人公はそんなふうに考え、周囲から奇異な目で見られても彼女のことで毎日頭をいっぱいにしている。
 
 死者を生きている人間と同じように向き合う、心優しく優柔不断な主人公に感情移入し、最後まで読んだ。
 くり返し、読んだ。
 胸の奥の奥の奥で、気づかぬまま、自分にも死者の声が聴けないかと願いながら。  

 本は、時に思わぬところで人生を振り返らせてくれる。
 カバンに荷物を詰め込んで旅にでるように、今日もまた記憶の抽斗に本をたくさん入れて進もう。
 先は、長い。
[PR]
by fastfoward.koga | 2011-09-09 22:47 | 一日一言 | Comments(0)