言霊の幸わう国

ライトオン

 今日、大学を卒業した。

 卒業式に向かう電車の中で、終わるということについての感覚について考えていた。
 大人になってこんな終りを迎えたことは他にあっただろうか、そう考えて思いついたのは、自分のことではなかった。
 思い出していたのは、20代のころすきだった人がバンドを、音楽をやめる最後の日のこと。
 ライブを終え、機材を車に積み込むその人の向こうに見えていたのは、よく晴れた空。
 小雨が降りそうな今日とは似ても似つかぬ空なのに、不思議なものだ。

 大学に着くと、午前中に通学部の卒業式があったこともあり、学内は独特の空気に包まれていた。
 久しく触れていなかった卒業式独特の空気。
 晴れやかな衣装をまとった人たち。
 写真を取り合う風景。
 別れを名残惜しむ様子。
 その脇をすり抜け、会場へ向かおうと建物に入ったら、そこには1年前に卒業した学友の姿があった。
 驚いて近づくと、さっと1本のバラを差し出された。
「卒業おめでとう」
 その心遣いに、思わず目を細めた。

 昨日も、やっぱり、1年前に卒業した学友から門出を祝うメールをもらった。
 わたしはそれを何度も読み返した。
 卒業の実感が生まれたのは、そのときが初めてだった。

 卒業式が終わり、記念写真の撮影のあと、コースごとに教室へ入った。
 そこで順番に卒業証書を手渡され、先生ひとりひとりからお祝いの言葉をいただいた。
 その中で、ひとりの先生が、ホワイトボードに書いてくれた言葉が胸に残った。

「WRITE ON」

 どうぞ、書き続けてください。

 ここは終わりではなく、始まりなんだなとしみじみ感じた瞬間だった。

 大学を出たあと、一緒に卒業した学友と3人でお茶をした。
 話はつきない。
 終わらない。
 でもそろそろと席を立ったが、そこでの別れは悲しくはない。
 また会えるとわかっている縁なのだ。

 ひとりになって、電車に乗った。
 学友のひとりが、今日はお寿司にすると言っていたので、わたしも真似して帰り道に握りを買って帰った。
 今日はお祝いだから、と並んでいた中で1番高いものにした。

 うちに着いてから、洗濯機を回し、アイロンをかけ、ひと息ついてから夕飯にした。
 テーブルに握りと箸を並べ、冷えたグラスにビールを注いだ。
「卒業おめでとう」
 自分にそう言ったら、じーんときた。


 スケジュール的にも精神的にも楽なことではなかったけれど、文芸を学ぶために大学へ入った3年は、人間すきなことはがんばれるものなのだということを確認する時間となった。
 今まで無理も無茶もしないのが信条だった自分を思い出すと、甘いかもしれないが、自分を褒めてやりたい気がする。
 でもがんばれたのは自分の思いだけではなく、一緒に学んだ学友に指導いただいた先生、大学の事務局の方々、そして周囲のみんなのおかげなのだ。
 ほんとうに、みなさまに感謝感謝。
 ただ感謝。

 その御恩に報いれるよう、明日からいち社会人に戻っても、書くわたしを模索し続けたい。
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by fastfoward.koga | 2012-03-18 21:12 | 一日一言