言霊の幸わう国

領域と限界を喰らう

 自分の領域を侵されることを、わたしは嫌っている。
 領域とは言い替えれば、安全地帯だ。
 自分と自分の取り巻く世界には境界線がある。
 それは時に線であったり、層であったり、壁であったりするのだけれど、どんなに近しくて親しくて愛しい人でも、必ず存在する。
 でもそれは相手と自分が別の個であることの証明で、決して悲しいことではない。
 自分でないから相手を知ろうとするのだし、その思いが相手をさらに求めることにもなるのだから。

 テリトリーを持つことを、わたしはそんなふうに意識している。
 だから、他人の領域に足を踏み入れることに逡巡する。
 学生時代、何年にもわたって担任教師に「自分で自分の限界を決めている」と言われていた。
 わたし自身はそれは限界だけではなく、自分にも他人にもある領域を意識するがゆえの行動だったように今なら思うのだけれど、それも言い訳にすぎないのだろうか。

 そうして、今日も、限界と領域の狭間で揺れた。

 サポートできることはしてあげたいと思う。
 けれど、相手が言い出す前に、そこまでする必要があるのか。
 求められていることは、胸の中で感じている。
 でも口に出されてはいない。

 結局、中途半端な提案をした。
 帰り道、少なくとも自分の中にある選択肢の中で一番つまらないことを選び、結論づけたような気がした。

 いつ頃からだろうか、帰りの電車で自分を襲うのは報われない思い。
 自分が決めたことなら、迷わずやりきりたい。
 けれど時に混み合った車内ですらも、周囲に誰もいないような孤独を感じる。
 誰かと、交信している。
 かすかでもいい、その実感を欲した。

 読みかけの本は、残りページがわずかになっていた。
 ページを捲るスピードを速めても、どんよりと曇る思いに光は射さない。
 いつもならしずしずとうちに帰り、ビール1本で濁す感情。
 でも今日はふと、隠れて小さな嵐をやり過ごすのではなく、力で吹き飛ばしたくなった。

 途中で電車を降り、改札を抜ける。
 ケーキを買って再び改札をくぐり、書店に立ち寄り1冊の本を手にとった。
 甘いものなんて、自分のためにめったに買わないけれど。
 これを書き終えたら、ひとつ食べよう。
 限界も領域もなくならないし、報われない思いも孤独も消えたりはしないけれど、今日は言葉にした思いをもう1度飲み込むのだ。 
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by fastfoward.koga | 2012-07-23 21:32 | 一日一言