言霊の幸わう国

忘れない 忘れたい 忘れられない

 ときどき、記憶力がいいねと人に言われる。
 自分ではそうでもないと思うけれど、あのときあんなことがあって、あそこに行ったときはこんなだった、なんて話は確かによくするかもしれない。
 でもそれも、自分の心になにかひっかかったことだけなんだけど。

 10代の終わりか、20代の初めか、わたしは覚えておこうとすることをやめた。
 それまではいろんなことをきっちりしっかり記憶という名の引き出しにしまっていたけれど、なんとなく予感がした。もう、これ以上は入りきれないだろうなと。
 だったら、今引き出しに入っている「もういいや」と思う記憶を、意識的に消してしまおうと考えたのだ。

 そんなことうまくいくのかと思う人もいるかもしれない。
 でも、できた。
 学生時代の友人と会って、あのときは~なんて話になったときに今は忘れてしまったことでも、あのとき、記憶消去のスイッチを押すまではちゃんと覚えていたことを覚えているから。

 吉本ばななの「らせん」というお話の中に、こんな一節がある。

  「もしかしていろんなことを忘れちゃって、その忘れたことは自分に必要ないこ
  となんだって。面白いでしょう?」
  「面白くないよ。その必要かどうかってのは誰が決めるのさ。」

  「全部忘れてしまうなんていいわけないだろう?」
  「忘れちゃいけないの?嫌なことも?」
  「自分で決めていくんだよ、それ。」

  「あなたのことをみんな忘れてしまいたいと思っている自分を忘れたい。」


 全部覚えていようとしていたわたしは、毎日が後ろ向きだった。そのときそのときが楽しくないから、楽しかったときのことを思い出して毎日をやり過ごしていた。
 まるでもう楽しいことやうれしいことがこれからないかのように。
 そんなふうにいい思い出はひとつも残さず抱えようとしていた自分が、急に怖くなった。

 忘れた記憶をもったいないなと思うこともある。でも、忘れたのは自分の意志だ。
 後悔はない。

 みなさんにはどんな忘れた思い出があるのかな?
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by fastfoward.koga | 2005-05-31 23:38 | 往復書簡 | Comments(4)
Commented by papas8559 at 2005-06-01 18:18
fastさんの考えるように、深くはないんですけど、
忘れた思い出って、匂いの記憶とともに、すぐに蘇ったりしますよね。
あるときから、それが嫌な思い出なら、蓋をする、ことができるようになったんですよ。頭をよぎった記憶に蓋をする。

でもこれは体調によるのですが・・・。
ちょっと主旨が違っててすんません^^
Commented by fastfoward.koga at 2005-06-02 00:19
いえいえ、そんなことありませんよ。
わたしもいやなことをうまくふたしてしまうことがありますし。
忘れたいからすべて忘れることはもちろんできないと思ってます。でもやっぱり記憶という名の容器の大きさはかわらないので、いいものをたくさん詰めていきたいですね。
そういう意味では、papasさんの言うことも同じことではないでしょうか?
Commented by caosoi at 2005-06-03 22:32 x
ときどき、え?憶えてない?と人に言われます。
そんな時は、すっきりさっぱり忘れてますね。
忘れたい記憶、ありますね。でも考えてみれば、それを忘れようとしたことがない、ということに気がつきました。うっかりしてたー
忘れる気はないのに憶えてないってことが多すぎて、自ら忘れるなんて
思いつかなかったのかな。
記憶に手を加えるのが面倒なのかな~
Commented by fastfoward.koga at 2005-06-04 14:09
記憶に手を加えるのが面倒、というのは正しいかも。
終わったことだから、というきもちがあるのでは?
しかし、記憶に関してはcaosoiさんとわたしは真反対だねえ。