言霊の幸わう国

繋がった瞬間

 じゃあね、ってふうな態度をひるがえして聞いた。
「甘いものすき?」って。
「はい」って答えたから、近くまで戻ってカーディガンの左のポケットから取り出した。
 白いリボンのかかった真っ黄色の小さな箱を差し出したら、手が差し出されたので、その掌に載せた。
 間接的に、彼と繋がった瞬間。
 箱を見て、小さく驚いてすごくうれしそうな顔をして笑った。気がした。

 そこに至るまで、そりゃあもうどんくさいったらありゃしない。
 1度はあきらめかけた。
 もうダメだと思った。
 でも長い通路をそう思って歩いているとき、ふっと勇気が湧いた。
 そして追いかけた。

 そのとき、たぶん彼は気づいていなかったはず。
 それがバレンタインのチョコレートだということを。

 今日は昨日のできごとを思い出したら恥ずかしくて、顔が上げられなかった。
 でもまたしばらく会えないのだよと自分を諭し、タイミングをうまく合わせた。
 正面に立ったとき、なにか言ってくれるかなと少し期待した。
 カチッと音がするように目が合ったけれど、彼はなにも言わなかった。
 わたしも、声にも言葉にもならないなにかで口元を少し動かしただけだった。
 
 彼が去ってから、出て行った扉の存在を背中で感じていた。
 魂が体から抜け出て、連れ去られてしまったようだった。
 しばらく会えないという思いに身を浸し、ずぶ濡れの状態で彼のことを思い出すと、体の中心が空洞になった。
 胸からお腹のあたりにかけてできあがったグレーの空洞。
 この感情に名前はあるのかと考えた。

 上着の感触を想像した。
 想像して、上着に包まれている彼自身に触れてみたいと思った。
 どんどん欲がふくらむ、風の強い夜。
 カタカタと扉が鳴っている。


追伸
 1度あきらめたそのとき思い出したのは、メールやコメントをくださったり、言葉はなくともそっと見守ってくださっているみなさんのことでした。
 自分を奮い立たせるためにチョコのことをここに書きましたが、結局はみなさんに背中を押していただきました。
 ありがとうございます。

 思うところは多々ありますが、ひとまず渡せたことをひとつのステップにして。
 もう1段上がって、どうかまた少し彼に近づけますように。  
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by fastfoward.koga | 2013-03-01 22:53 | 一日一言