言霊の幸わう国

人魚

 旅に出ない誕生日は、いつもと変わらぬ1日だった。
 笑って怒って何事もなく終わってしまいそうだった。
 夜仕事帰りに友人と待ち合わせ、飲みに付き合ってもらったことと、おめでとうというメッセージをもらうことがなければ、そう、なんてことはない1日。
 そうか、旅に出ないとこんなものなんだなあ、と思った。

 朝起きて、顔を洗って、歯を磨き、食事をし、階段を下り、電車に乗り、坂を上り、仕事をした。
 そしてすきな人のことを考えられる時間があるだけ考えていた。
 誕生日の前の日も、誕生日の日も、夜はずっと彼の姿を思い出していた。

 目を閉じて横になり彼のことを考えていると、ベッドの上にあるはずの体が沈んでゆくような気がした。
 水の底にゆーっくり落ちてゆくように。

 この恋にいっそのこと溺れてしまえと、いつだったか書いた。
 まさしく今わたしは溺れているのだろう。
 けれど不思議なことに、息苦しくはない。
 
 メールで得る言葉と、視線を合わすだけの短い時間。
 どちらも藁をもつかむほど欲していることなのだけれど、どちらかではもう満たされないところにまできてしまった。
 欲深かさが世界を底なしにしてしまうのか、まだ体は水の中を落ち続けてゆく。
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by fastfoward.koga | 2013-07-03 21:21 | 一日一言