言霊の幸わう国

サークル・トランスファー ~鎧を脱ぐ

★7月21日(日)
 7:45 京都駅前発 ⇒(高速バス)⇒ 12:21 尾道駅前着   -尾道散策(昼食・夕食)-


 旅に出るにしては、鎧をつけたような重苦しさがあった。
 旅の支度をしながらも、日常のわずらわしさをぬぐい去ることもできなかった。
 それでも旅に出たのは、そうしないとおかしくなるなと、頭のどこかで思っている自分がいたからだ。
 旅に出てようやく気づいたことだけれど、それくらい切羽つまっていた。

 行き先は、と言うようり、どのあたりに行くかは迷わなかった。
 次に鉄旅をするなら中国地方だなと、前から考えていたから。
 でもいつものようにガイドブックを熟読し、ネット検索を駆使したわけではない。
 ただ列車に揺られたいと決めた行程。
 だから、できあがった行程は、ある点を基軸にしてぐるぐる巡り移動するものになった。

 1日目は尾道に行こうと決めたのは、長らく行っていないことが気にかかっていたことと、ドキドキするようなところへ行く気力がなかったからだ。
 安心できる場所へ行きたい、そう思っていた。
 そうして尾道は、そんな期待を裏切らない。
 街を歩きだしてから記憶を辿ると、訪れるのは3年ぶりだった。
 変わっているところ、変わっていないところ、どちらも感じたけれど、歩けば歩くほど帰ってきたのだという思いが湧き上がってきたことがうれしかった。

 高速バスで尾道駅前に着いてすぐ、ホテルへ背負っていたリュックを預け身軽になった。
 その足で駅前にあるお稲荷さんにお参りして、ご無沙汰してますとご挨拶をする(ここのお稲荷さんとは前回ちょっとしたことがあったので、お参りははずせないのだ。詳しくはこちら→)。
 そのあと商店街でお昼を食べ、迷わずロープウェイ乗り場へ向かった。

 千光寺に向かうロープウェイは、するすると上がっていった。
 すでに汗だくだというのに、その緩やかさが心地よい。
 視線が高くなり、海とその手前に町の景色が広がる。
 それは何度も見てきた風景。
 そこでわたしは、胸の内であーと歓声を上げた。

 いつものように千光寺さんにお参りし、おみくじを引く。
 今回は小吉で、中に入っていたのは恵比須さん。
 これまでここで何度もおみくじを引いてきたけれど、毘沙門天と大黒天がふたつずつ、福禄寿と弁財天がひとつずつだったので、恵比須さんは初めて。
 なくさないように、カバンのポケットに仕舞いこんだ。

 お参りのあとは、くねくね歩いて坂を下る。
 尾道は思いつきで歩いても必ず見覚えのある景色に出会うから、安心して迷子になれる。
 たとえ自暴自棄になって、わーんと駆け出しても、必ず守ってくれる懐の深い町なのだ。
 
 下って上ってをくり返しながら、御袖天満宮、西國寺、金剛院、宝土寺を巡る。
 その途中、気分を変えたいなと志賀直哉旧居と文学記念室を訪れた。
 志賀直哉旧居では数年前に読んだ『暗夜行路』の世界を思い出し、さらに大すきな『城崎にて』に思いを馳せた。
 文学記念室では、「こんにちは」と中に入ったとたん、係の方に扇風機のある縁側へと案内された。
「まあ、どうぞどうぞ」と冷たい氷水までいただき、縁側でひと息ついた。
 庭をはさんだ向こうには、瀬戸内海と尾道大橋。
 それをぼんやり眺めながら、部屋の向こうからは係の人ふたりがするなんてことのない日常の会話に耳を傾ける。
 音がないわけではないのに、静かだと感じた。
 キーボードを叩く音、電話で話す声、途切れることなく紙を吐き出すプリンタの音、誰かを呼びつける上司の声。
 いつも自分を取り巻いている場所で鳴っている音との違いに、わたしは浸っていた。
 正座した体が、小さくしぼんでゆくようだった。

 ここまで来て、自分を大きく見せる必要などないのだと、無意識の中の自分が気づいた。
 そこで、やっと、本来の大きさの自分が戻ってきた。


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by fastfoward.koga | 2013-08-17 23:35 | 旅行けば