言霊の幸わう国

まだ道半ば

 火曜日、すきな人に朝、ラインでメッセージを送った。
 書き出しをどうしようかと数日感悩んでいたわりには安直な言葉を選び、ためらわず送信ボタンを押した。
 押したあとためらわなかったことを少し後悔し、その思いをかき消すように通勤電車の中で目を閉じた。
 その日、彼がいつもの場所にいるのか、どこか別の街にいるのかわからなかったけれど、なんとなく朝のうちに返信があるんじゃないかと思っていた。

 目を閉じて数10分後にスマホが震えた。
 少し深いところまで眠りに落ちていたし、浮かれすぎるのもなんだからと、そのまま眠りつづけた。
 降車駅の手前でスマホを手にすると、さっき震えたのはヤフーニュースからのものだった。
 浮かれていないふりをした自分がみじめだった。

 9時始業前まで気にしていたけれどスマホは再び震えることはなく、午前中は自分への腹立たしさにさらにイラついて仕事をした。
 軽くめまいがするほどの忙しさで、昼休憩もとれないと途中であきらめ、空腹をまぎらわすための飲み物を調達しようと財布を取りにカバンを覗いたとき、彼からのメッセージに気づいた。
 すぐに戻らなくてはいけないとあせって、またそっけなくてつまらないことを書いて送り、その場を離れた。
 さすがにそこからは、昼抜きでも気分的には楽になった。

 夕方、終業後にスマホを見ると、ちゃんと彼から返信があった。
 送信時間は、片手間で送ったわたしのメッセージの数分後だった。
 電車に乗ってから、今度は落ち着いて安直な言葉への言い訳を書いて送った。
 うちに着いて夕飯を作って食べていると、また返事がきた。
 そうして数10分間隔でやりとりを続けた。
 やりとりしていると欲が出て、おやすみなさいという言葉を今夜彼から引き出したいと思った。
 おやすみなさい、はわたしには特別な言葉、1番無防備になる眠りへ導く呪文のようで、すきな人から言われるとこそばゆい。 
 それを今夜どうしても、疲れでふらふらしている中、ほしがった。
 欲したとおり、彼はねぎらいの言葉とともに、おやすみなさいと書いてくれた。

 ほしいものを手にしたというのに、スマホを手にして途方に暮れた。
 もっと彼とやりとりをつづけたかったと、悔やんだ。
 でもそこから言葉は繋げなかった。
 悶々として、もう何夜も枕元に置いてある『河岸忘日抄』を開いた。
 考えごとをしながら文章を追うとすぐに流れを見失ってしまう作品なので、そのときだけ彼のことを忘れて必死に読んだ。
 瞬きの閉じが長くなり始めた瞬間を捉え、本を閉じ灯りを消した。
 真っ暗になると、彼のことがパチンとゴムが弾けるように思い出された。

 そこから、考えて思っている。
 焦がれるってこういうことだよなと、自らを振り返り思っている。  
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by fastfoward.koga | 2014-03-21 22:57 | 一日一言 | Comments(0)