言霊の幸わう国

つつじの香り嗅ぐ坂道

 つつじの花が満開だ。
 今までそれほど気にかけなかったこの花が、今年はあちこちで咲いているのをよく目にする。
 今年に限って目に付くのはどうしてだろう。
 つい先日、そんなことを考えた。

 自分の勘を、どこまで信じていいのかと思うことがある。
 あれ? なんて、漫画の吹き出しや、ドラマのわかりやすい反応のように、その言葉が自分の中にちゃんと湧き上がってくるわけではない、ただあとで思い返すと、あれ? と表現したくなる瞬間がたまにある。
 その正体がなんなのか、未だつかみきれていないのだけれど、そのとき確かにわたしの動きは止まった。

 ある日の朝、すきな人にLINEを送った。
 でもそれに対する返信はとても素っ気なかった。
 いつもなら感じる行間からほとばしるような活発さはまったくなく、受け取ったわたしは支度をしていた手を止めた。
 スマホ片手に、しばし静止。
 支度を続けて数10分経ったあとに、意を決して、なにかあった? と問うてみた。
 それに対し、彼からの返信は、なぜですか? なんもないですよ、という言葉。
 素っ気ない言葉に、胸がひやりとした。
 取りこし苦労もあるかもしれないと考えつつ投げかけた問いであっても、そのあと生まれたもやもやはなかなか消えなかった。

 結局のところ、その数時間後にいつもの場所にいない彼を見つけることとなり、なにもないなんてことなかったことがわかった。
 運良く偶然すれ違ったときに再度問うてみたら、大丈夫だとなんでもないふうに言ったので、それはもう信じるしかなく、その一方で気づいてしまった自分、そのことを口に出したこと、それが果たしてよかったのかどうか、もやもやはさらに大きくなってしまった。
 答え合わせはできるものではない、そうわかっていても、彼からのもうひと言を求めている自分がいた。
 
 相手の考えることなんて、すべてわかるはずもない。
 でも、理解したいと思う。
 理解できなくとも、きもちを寄り添わせたいと願う。
 そのきもちがわからなくとも、せめて、わたしはあなたの味方だよと伝えたかった。

 その後数日、彼のいるところへ行くかどうか迷っていた。
 でもなにがどうなるかは行ってみないとわからないことだから、とその場所へ向かった。
 その日最後に見た彼は、笑っていた。
 たくさんの人の輪の中で笑っていた。
 シリアスに考えすぎるのはわたしの悪い癖。
 彼が大丈夫だと言ったのだから大丈夫なのだと、そこでようやく少し思うことができた。

 その帰り道、しばし思案して彼にLINEを送った。
 空には薄い月。
 頼りない今のきもちに寄り添いすぎているその月に1度はきもちがしゅんとしたけれど、公園のベンチに腰かけ彼にメッセージを飛ばした。
 短い言葉に、短い言葉ですぐ返事がきた。
 そのあと、わたしは京都の街中のあちこち歩いては立ち止まりし、一文だけのやりとりを何度も重ねた。
 その中で、彼のきもちが上向きになっていることを確認し、ようやく安堵できた。

 人と会って数時間後、胸のあたりに意識を集中させてひとつ言葉を引き出した。
 その言葉をスマホの画面上に転写して、数回読む。
 読んで、すうっと送信ボタンを押した。

 あとになってそれが、告白みたいな言葉だったと気がついた。
 気がついたら、まっすぐ坂道を上って帰る気になれず、ぐるり遠回りして帰った。
 時折、事の重大さにおののいて、立ち止まっては胸に手を当て深呼吸した。
 最後に立ち止まったとき、つつじの香りが控えめに鼻をついた。
 無性に、つつじが愛しくなった。

 金木犀や白檀ほど、強さを醸し出すことのないその香り。
 そのときは鼻の奥を経由して、もっと感覚の深いところにまで辿りついた。
 その夜は、もう思い出せないその香りを探しながら眠りについた。

 今日は小雨が降る中、つつじの香りを嗅ぎに散歩に出た。
 空気はひんやりとして冷たい。
 わたしはつつじの咲いている場所を何度か往復し、改めてつつじという名をつけた記憶を抽斗にしまいこんだ。
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by fastfoward.koga | 2014-05-05 17:43 | 一日一言 | Comments(0)