言霊の幸わう国

5月の巻

1 クラフト・エヴィング商會
         テーブルの上のファーブル・筑摩書房 ※
2 湯本香樹実  岸辺の旅・文春文庫 ※
3 堀江敏幸   燃焼のための習作・講談社 ※
4 丸谷才一   思考のレッスン・文春文庫 ※

※印は、読み返した本です。


 堀江敏幸の『燃焼のための習作』を読み返すのは何度目か。枕元に置いて毎晩読み進めていましたが、今回は途中から気になる個所に付箋紙をつけていました。
 1番初めにつけた付箋紙の下には、「(前略)ひとまわりほど年下の、不思議と話が通じる友人がいて、ひと頃その友人が異国の大河の岸に繋留された船に住んでいたことがあった」という文章があるのですが、そう、この物語は今年読み返した『河岸忘日抄』と繋がっています。
 別世界で読んでいた主人公を頭のどこかに置きながら、別の時間で進んでいる物語を読むという不思議。
 と、ここまで書いて、そうだこの物語はもうひとつ別の物語とも繋がっていたのだと思い出しました。
 せっかくなので、近いうちにそれも読み返そうと思います。

 閑話休題。
 わたしが堀江敏幸の小説がすきなのは、必ずと言っていいほど登場する記憶についての記述です。
 この『燃焼のための習作』でも、こんな文章がありました。少し長いですが、引用しましょう。

「枕木(主人公)の若い友人は、かつて手紙のなかで、記憶にレ点を打つという詩人のような表現を使った。忘れていないかどうかをチェックするのでも、忘れたものを呼び覚まそうとするのでもなく、ただ目の前に現れた記憶に敬意を表し、慈しみの心をもって印をつけること。(中略)枕木は心の中でレ点を打つ。それらが消えてしまうか保存されるかはどうでもいいことだ。記憶はときに自立する。こちらがどんなに環境を整え、どんなに刺激を与えても水面に出て来ない時間の層があり、なにもしていないのに自分の方から湧き上がってくる古層の水がある。表に出てきたものがその後どうなるか、タグをつけていつでも場所が分かるようにしておけばいいのだが、それでは正しい意味での記憶にならないと枕木は考える。記憶が眠っている場所は、ひとによって大きく異なる。縦穴もあれば横穴もある。神隠しはそのどちらでも起きうるのだが、記憶はおそらく他者の縦穴や横穴ともつながった複雑な坑道ができて、はじめてその存在が特定されるようなものではあるまいか。じぶんひとりで掘り出そうと思ってもできない相談なのだ。(後略)」

 ちなみに、貼った付箋紙はそのままにしておきます。
 今度読み返したとき、付箋紙の下の文章をどんなふうに感じるのか。
 楽しみのためにとっておきます。
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by fastfoward.koga | 2014-07-12 20:06 | 本の虫