言霊の幸わう国

ごほうび

 本を読んでいて、胸を鷲掴みされるような一節をみつけたとき、いつも思うことがある。
 わたしはこの一節をどのくらい覚えていられるかな、と。

 本の読み方は、いろいろある。
 会社の人は、気になる一節は忘れないように手帳に書き写しているそうだ。
 わたしが大学時代に受講した国語表現の先生は、本を読むときにはペンを持って、気になるところにラインをひくと言っていた。
 そして、読み返すと同じところにまたラインをひくこともあるし、違うところにラインをひくこともあるから、ペンの色を替えるとおもしろいとも話していた。

 本を読む環境と時間、その日の気分、体調などなど。
 そんなもので、同じ文章でも違う感覚や感想が自分の中に生まれる。
 でも、それは泡のように消えていってしまうから、うまく手の中に掬えたものだけが記憶に残る。
 もしかすると、言葉を書き留めたり、ラインをひいていたら、もっとたくさんこの手に残せるのかもしれない。
 でも、わたしはそれをしない。

 わたしが本に求めているのは、記憶ではない。
 毎日本を読むだけでなく、いろんなものを見て聞いて感じているから、ちょっと琴線に触れるくらいのものは山ほどある。
 そんな膨大なインプットされるなにかの中で、胸に留まることのできたものだからこそ価値があるのだと思う。
 わたしはただ本を読んでいるその瞬間に、パズルのピースのように自分のきもちにうまくはまる感覚がほしい。
 だからいつ読み返しても、その本をまっさらなきもちで読めるように、自分のきもちをニュートラルにしていたいのだ。
 
 昨日の夜は、そんな出会いがあった。

「止めることのできない時間は惜しむためだけでなく、美しい瞬間を次々に手に入れるために流れていく。
 私は、あ、ちょっとしたごほうびだ、と思った。」

                              吉本ばなな 『体は全部知っている』

 電気が走るような感覚。
 それくらい強いものだから、わたしには、かなりのごほうびなんだけどな。
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by fastfoward.koga | 2006-02-04 01:31 | 一日一言