言霊の幸わう国

ごほうび

 本を読んでいて、胸を鷲掴みされるような一節をみつけたとき、いつも思うことがある。
 わたしはこの一節をどのくらい覚えていられるかな、と。

 本の読み方は、いろいろある。
 会社の人は、気になる一節は忘れないように手帳に書き写しているそうだ。
 わたしが大学時代に受講した国語表現の先生は、本を読むときにはペンを持って、気になるところにラインをひくと言っていた。
 そして、読み返すと同じところにまたラインをひくこともあるし、違うところにラインをひくこともあるから、ペンの色を替えるとおもしろいとも話していた。

 本を読む環境と時間、その日の気分、体調などなど。
 そんなもので、同じ文章でも違う感覚や感想が自分の中に生まれる。
 でも、それは泡のように消えていってしまうから、うまく手の中に掬えたものだけが記憶に残る。
 もしかすると、言葉を書き留めたり、ラインをひいていたら、もっとたくさんこの手に残せるのかもしれない。
 でも、わたしはそれをしない。

 わたしが本に求めているのは、記憶ではない。
 毎日本を読むだけでなく、いろんなものを見て聞いて感じているから、ちょっと琴線に触れるくらいのものは山ほどある。
 そんな膨大なインプットされるなにかの中で、胸に留まることのできたものだからこそ価値があるのだと思う。
 わたしはただ本を読んでいるその瞬間に、パズルのピースのように自分のきもちにうまくはまる感覚がほしい。
 だからいつ読み返しても、その本をまっさらなきもちで読めるように、自分のきもちをニュートラルにしていたいのだ。
 
 昨日の夜は、そんな出会いがあった。

「止めることのできない時間は惜しむためだけでなく、美しい瞬間を次々に手に入れるために流れていく。
 私は、あ、ちょっとしたごほうびだ、と思った。」

                              吉本ばなな 『体は全部知っている』

 電気が走るような感覚。
 それくらい強いものだから、わたしには、かなりのごほうびなんだけどな。
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by fastfoward.koga | 2006-02-04 01:31 | 一日一言 | Comments(6)
Commented by goggo911 at 2006-02-04 19:35 x
この文章ほんとにいいですね~。
私もこの文章とってもしっくりはまります。
fastさんの読み方、
私も同じです。
だからとってもよくわかります。
仕事以外は私、ラインは引きませんからね。
記憶に残らないならそれまでのこと。という考えなんで
人生記憶があんまり残らない
のうてんきな私です。
Commented by cool-october at 2006-02-04 20:03
うんうん。同感だな。
でもそれにオレは儚さを感じちゃうんですけど。
Commented by fastfoward.koga at 2006-02-05 00:41
goggoさん、ありがとう。
これは先月あなたからもらったメールを読んで、考えていたことでした。
わたしは読んだ本のことをよく覚えていて、その一節を引用するけれど、そのために本を読んでいるわけじゃないなって、改めて思ったので。
わたしは、わたしの胸にぴったりはまったけどあなたにはどう? という思いで、いつも読んだ本のことを話しています。

これからも、お互いごほうびとたくさん出会えるといいね。
Commented by fastfoward.koga at 2006-02-05 00:43
coolさん、ご賛同ありがとうございます。
確かに、儚さはわたしも感じます。
だからこそ、手に残ったなにかがとても貴重で、愛しく感じます。
その瀬戸際で、バタバタしてるんですよね、いつも。
Commented by goggo911 at 2006-02-05 10:49 x
そうですね。
いつか使おうと思って本を読む人はいないですものね。
惹かれたから読むんですよね。
だから本を読んでいてそれを心にとどめて
いい時期にそれがでてくるという
そんなfastさんがとてもステキだなと
思うのです。
私はいつも
あの~あの人が~あの時にええっと・・・・
ってな感じでの記憶。
これ記憶じゃないな。
Commented by fastfoward.koga at 2006-02-06 00:20
goggoさん、こんばんは。
何度もお褒めいただいて、ありがとう。
あなたとはよく読んだ本の話をするから、そんなふうに思ってもらえるのかな。
記憶の引き出しは、整理の仕方でうまく引き出せるようになるものです。
わたしは、そう思ってるんだけど。
慣れ、もあるかな?