言霊の幸わう国

チチの教え

 実家暮らしのわたしは、特になにもなければ夜はいつも両親とともに食卓を囲む。
 うちのチチは朝早くに出勤するために、夕飯どきにはいつもうちにいて一緒に食事ができるのだ。

 小さいころも今も、わたしはチチの左側に座る。
 いつもチチの目が届くところで食事をし、箸の使い方や、咀嚼するときの注意、テーブルの上での礼儀作法を教えられてきた。
 チチは特に魚の食べ方にはうるさく、身が残っていたり、ぶきっちょな食べ方をしていると、こうすると食べやすいと実際にやって見せて教えてくれた。

 確か小学校5、6年生のころだったと思う。チチはこう言った。
「10歳までに言って直らんかったら、もう言わん」、と。
 その言葉どおり、チチは大きくなるにつれて食事の際の礼儀作法についてはうるさく言わなくなった。

 でも不思議なもので、言われないほうが緊張感がある。
 その証拠に、わたしはチチが言ったその言葉を忘れていない。
 未だにチチと同じ食卓で魚を食べるときは、チチの皿の魚を見る。
 どう食べれば綺麗に見えるのかな。どこまで食べられるのかな、と。

 だから、食べ方を気にしなくてはいけない人とは、食事はしにくい。
 大きな口を開けたり、骨についた身を必死にとっている姿を見せるのはちょっと・・・、と思うとゴハンはおいしくいただけないからだ。
 わたしはどちらかというと、綺麗な食べ方をするよりは食べたあとが綺麗に見えるほうがいいなと思う。
 魚でも肉でも、身が綺麗にたいらげられ、骨だけが残っているお皿を見るときもちがいいと感じる。

 おいしいものをおいしく。
 味わうためには、ただ口に入れて食べるだけではダメなのだ。
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by fastfoward.koga | 2006-03-05 00:28 | 一日一言