言霊の幸わう国

偶然

 逃げるように、会社を出た。
 別に逃げる理由はないけれど、なんとなくきもちがせかされた。

 駅に着いて、原付にまたがった。
 西日のまぶしさにわずらわされる前にと帰りを急いでいると、右折しようとする交差点で反対側の横断歩道を渡る自転車に乗る女性に目を奪われた。

 あっ、と思わず声にもらした。
 でも相手はもちろん気づかない。
 颯爽とペダルを漕いで、横断歩道を渡ったら右折していった。
 おでこをきれいに出して、背筋をピンと伸ばして、まっすぐ迷わずに前を見ていた。
 美しい漕ぎ姿だった。

 うちに辿りついてポストを覗くと、エアメイルの封筒が入っていた。
 すっきりとした字と、切手が貼られていないことで、送り主の名前を見なくても誰かかわかった。

 彼女の帰宅コースを頭に思い浮かべたら、笑みが出た。
 こんなことがあるから、人生やめられないのだ。
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by fastfoward.koga | 2006-06-16 18:15 | 一日一言