言霊の幸わう国

傷を舐める

 カバンの中に手を突っ込んだときに、なにかにひっかけて切れてしまったみたいだ。
 左手薬指の第1関節のところに、傷ができた。
 見た目はたいしたことはない。
 でも、ジンとする痛みに思わず駅のホームで傷口を舐めた。

 たった数ミリの傷。
 切ったというよりは少し皮がめくれている。
 しばらくは痛みを忘れていた。

 さっきから目線が下がる。
 立ち上がると、自分の青く塗られた爪先を見てばかりいる。
 夜空をイメージして塗ったのに、今は深い深い水の底のように感じる。

 お風呂に入って手をお湯にさらすと、忘れていた痛みが戻ってきた。
 初めに感じたよりも痛い。
 でも、湯船の中で指をお湯につけないようにじっとしていたら、今度は苦しいことに気づいた。

 胸の中が、大きな振り子時計が鳴るように低く低く響く。
 それが早くなると、息が詰まりそうだ。お風呂の湯気のせいか。そんなわけないか。

 吐く息は重い。
 でも、その重みに負けるわけにはいかない。
 朝が来たら、顔をちゃんと上げなくては。
 こんなちっちゃな傷口、たいしたことはない。そうでなくては、始まらない。
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by fastfoward.koga | 2006-06-21 22:48 | 一日一言