言霊の幸わう国

うぬぼれ

 今、部屋の中で机の上だけが散らかっている。
 読み終わった本が本棚に片付けられず机の右すみにどんどん積まれ、その横にカードの請求書が置かれ、メモが間にはさまっていたりする。
 かろうじて、パソコンのスペースだけは確保されている。

 そんな中から、先週の木曜日、あるメモを救出した。
 ともだちと飲みに行ったときの代金とタクシー代を走り書きしたメモ。
 その上に、赤いペンで携帯番号が書かれていた。
 もちろん自分の文字。

 痕跡を消したつもりでいた連絡先。
 思わぬところで見つけてしまい、一瞬胸が凍りついた。
 覚えようと思えば覚えられそうな、語呂のいい番号。
 でも、もう必要なくなった。いや、ないようにしてしまった。

 1本くらい、その人とのつながりを残しておいてもたぶん害はなかっただろう。
 でもすぐ笑ってゴミ箱に入れた。
 うぬぼれた自分が恥ずかしかった。
 わたしに害はなくても、向こうに害があるというのに。

 結局1度もかけたことのない番号。
 でもライフラインのように、あるときはなによりも大切なものだった。
 その番号が手の中にあるだけで、安心することができた。

 それまで少し自分の胸の中に残っていた都合のいい考えが、メモが他のゴミとまぎれた瞬間消えた。
 朝、振り向かずにうちを出た。
 夜、帰ってきて空っぽになったゴミ箱を見て、その人のもとに雪解けのシーズンが訪れたんだと思った。

 まだまだ残暑厳しい毎日なのに、雪解けだなんてねぇ。
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by fastfoward.koga | 2006-09-03 20:53 | 一日一言