言霊の幸わう国

すきだから

 お昼を食べたあと、会社のデスクで便箋を広げた。
 ここぞというときに使っている、白い便箋と目も覚めるような鮮やかなグリーンの封筒。
 手紙を書こうと、朝うちを出るときにカバンに入れてきた。
 でも、できればこんな手紙は書きたくないなと思っていた。

 昨日の夜、21時をまわった電車のホームでぼんやり考えていた。
 わたしがしていることは、なんにもなっていないんじゃないかな、と。

 ときどき、すぽっと穴にはまるように考え込んでしまうことがある。
 昨日まではよーし! と明るく力強く自分のすることを肯定できていたのに、ふとした影を見つけてそのまま暗闇に引きずりこまれるのだ。

 この人に、これをしてあげたい。
 そういう思いで胸をいっぱいにして、人をすきになっていたことがある。
 でも別れるとき、結局人が人にしてあげられることなんてないのだと思った。
 できることじゃなく、してあげられること。
 それは、驕りじゃないのか。

 そんな思いが、胸の中に小さな固い石になってずっと存在している。
 やっかいなことに、それはふとしたときにむずむずと動き出す。
 最後は決心したことを揺るがすくらいになることもあるから、わたしはいつも、あ~あ、せっかくがんばろうと思ったのにと自分に嘆いている。

 人が人にしてあげられることがないのなら、その人と一緒にこれをしたいと思うのはどうだろうと考えたこともある。
 おいしいものを食べたり、きれいなものを見たり聴いたりしたときに、あの人にも同じものをと思うこと。
 それで少し安心して納得できたこともあった。
 でも、やっぱり、今はそれじゃ物足りない。

 急に、誰かをすきだと思ったことをどう表現していいのかわからなくなった。
 さりげなく、途方に暮れている。

 ただ、それでも、手紙を書こうと思った相手にはわかってほしいと思った。
 自分が彼女にできなかったことと、そう思ったこと、そして彼女の未来が健やかであると願っていることを。
 そんなものは伝えたところでなにも産まないのかもしれない。
 でも、結果なにも産まなくても、わたしの中に生まれた感情をそのまま誰の目にも触れないままどこかへ葬ってしまうのは悲しいと思った。
 だから迷わずに便箋に言葉を埋めて、しっかりと封をした。

 もう、すきだという思いをもてあまして墓場ばかりを作るのはやなのだ。
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by fastfoward.koga | 2006-09-22 23:04 | 一日一言 | Comments(2)
Commented by mackworld at 2006-09-23 02:25
■好きという感情は情熱だからねー、メラメラと燃え上がれば恋愛劇場の主人公になれますなぁ。
ただ感性がどこかで合っていないと哀しいピエロを演じなくてはならなくなるから、ずっと芸人になりきれれば、それはそれで素敵な事ですな。
Commented by fastfoward.koga at 2006-09-24 08:08
mackさん、おはよ。
芸人になりきるか・・・。
ずっとは難しいな。
やっぱりピエロはいややなぁ。
と思っていると、前に進まないのかしら?