言霊の幸わう国

願い

 昨日、ともだちと飲みに行くためにいつもと違う電車で京都へ戻った。
 特急の1番前の車両に乗っていたら、途中で人身事故に出くわした。

 1度目のクラクション。
 2度目のクラクション。
 3度目のクラクション。

 2度目のクラクションが長くて、いやな感じが自分を取り囲んだ。
 3度目のクラクションはさらに長くて、もうダメだと思った。

 ブレーキがかかっている感覚はあまりなかった。
 でもガガガガガと、なにか金属のようなものを巻き込んだのは音と響きでわかった。
 あっと思ったとき、やっとブレーキがきいてほんの少し前かがみになった。

 すわっている電車のシートで、きもち悪さに頭を抱えたくなった。
 でも他の乗客の人たちは、案外普通の顔をしていた。
 このままだと車内がいやな空気に包まれてゆく気がしたので、降りたいと思った。
 電車もしばらく動かないだろうし、ここにはいたくないと思っていた。

 でも10分ほどで、電車は動き出した。
 車掌さんは何度も電車が遅れたことを詫びていた。
 途中の停車駅で、車両確認をするというアナウンスが入った。
 ほんの数分で終わった確認。
 だから轢いたのは自転車くらいのものだったんだろう、そう思っていた。

 ともだちと合流して、大変やったーなんて事故の話を口にして、車内のきもちの悪い雰囲気も忘れてお酒を飲んで酔っ払った。
 途中から、思い出しもしなかった。

 今朝、起きてすぐ新聞を広げたら、昨日の事故で2歳の女の子が亡くなったという記事が目に飛び込んできた。
 前後に娘ふたりを自転車に乗せて踏切を渡ろうとしていたお母さんが踏切内で転倒し、そこに特急電車が来た。3歳の長女はなんとか踏み切りの外に連れて行けたが、もうひとりの次女を助ける前に特急電車が自転車ごとはねてしまった。こどもふたりはシートベルトをつけていて、お母さんは自転車を押して踏み切りを渡ろうとしていたということ。お母さんと長女の目の前で事故は起こった。

 もちろん、電車に乗っていたわたしにできることなどない。
 でも。

 電車はすぐに動き出した。
 遅れを取り戻そうと、いつもよりスピードを上げているような気がした。
 そんなもの、なのか。

 たったひとつ知りたくて仕方ないのは、動き出した8両編成の電車は通り過ぎるとき2歳の小さな女の子をどんなふうに見ていたのか。
 ただただ、わたしを含め約700人の乗客が彼女の上を通り過ぎていないことを願う。
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by fastfoward.koga | 2006-10-07 12:03 | 一日一言