言霊の幸わう国

置いてけぼり

 部屋が散らかっている。
 少し片付けて、散らかして。
 2、3日そのくり返しだ。

 この間、夜眠る前にあげるよと言われた金子光晴の詩集を開いた。
 右耳を枕に押し当てて、ゆっくりと綴られた言葉を小さくつぶやきながら追った。
 難しくて読めない漢字や、意味がわからない言葉がすぐにいくつも出てきて、辞書を引きながら読んで次読むときは寝る前にしようと思った。

 そんなことをぼんやり考えながら、指でページをめくった。
 ぱらぱらとはためくページから生まれる風は少しかび臭かく、愛しくなった。
 その風を鼻先に受けていたら、ふっと泣けてきた。
 体の中に特別な感情が湧きあがってきた感じは、少しもなかった。
 でも、大きめの涙だけがいくつか目から飛び出した。
 あーあー、と思い起き上がって鼻をかんだら、嵐は一瞬で去ってしまった。

 数日間、なんとなく燻っていたものがあった。
 立ち止まったり、立ち尽くすほどではない。でもギアがセカンド以上に上げられない。
 そんな感じ。

 どうも、わたしはわたしに置いてけぼりをくっていたようだ。
 さっきやっとそのことに気づいた。

  「GO! Look back again
  置き去りのままの
  真実も嘘も傷も
  噛みしめていたい
  痛い痛い痛い

  輝き出すように
  ちりばめられてる
  後悔も罪も過去も
  愛したいから

  手に入れた糸に溺れてしまう前に
  GO! Look back again
  この胸につたう
  涙を唄う」

           矢井田瞳  『Look Back Again』

 置いてきたものがたくさんある。
 意図的にそうしたものも、そうでないものも、両方。
 それが最近、何度もフラッシュバックする。

 ときどきふと自分がどこへ向かっているのかが、わからなくなることがある。
 進むのは自分が進もうとした方向でしかないのだけれど、そのことすらも忘れてしまう。

 でも、今わたしはフラッシュバックする過去よりももう少しぬくぬくしたところにいる。
 だから、ただ泣けたりする。
 幸せなことだ。

 でも、とまた思う。
 ただ泣けることに溺れてしまいたくないと。

 今も過去も未来も、蹴っ飛ばせるくらいでいたいのだ。

 さっさと部屋を片付けて、蹴っ飛ばしたいものをカバンに詰めよう。
 そして明日、小さな旅に出る。
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by fastfoward.koga | 2007-02-09 21:56 | 一日一言 | Comments(2)
Commented by mack at 2007-02-11 10:42 x
■もうひと月もすれば、春。
金子さんの目には「桜」がこんな風に映ってまする。

さくら(部分)

(前略)
さくらよ。
だまされるな。

あすのたくはへなしといふ
さくらよ。忘れても、
世の俗説にのせられて
烈女節婦となるなかれ。

ちり際よしとおだてられて、
女のほこり、女のよろこびを、
かなぐりすてることなかれ、
バケツやはし子をもつなかれ。
きたないもんぺをはくなかれ。
Commented by fastfoward.koga at 2007-02-11 22:36
mackさん、こんばんは。
どうもありがとう。
少しずつ金子光晴の世界を、紐解いていこうと思います。