言霊の幸わう国

◆9つの話◆   9.本の神さまとブックカバー

 秋田への旅について、旅の途中ではここでこんなに書こうという気はなかった。
 それが急にこんなにも書く気になったのは、秋田空港で飛行機の出発を待っているときだった。

 空港の待合室では、エネルギーを使わないように気をつけていた。
 感情も行動もできるだけフラットにフラットにして、ゆっくり動けばまるで時間が早く進むかのような感じで。
 
 出発までの間に、空港の小さな書籍のコーナーで1冊の本を買った。
 興味のわかない作家の本ばかりが並ぶ中、最近教えてもらったばかりの作家の名前を見つけた。
 これは本の神さまが読めといっているのだろうと、レジそばにあった仁手古サイダーとともに購入した。

 すぐに読み始めた小説のテンポはよく、そこそこおもしろいと思った。
 合間に、ほんのり甘くておいしいサイダーを飲むために本を閉じたり開いたり。
 その度に空港の中の様子に視線を走らせた。

 なににも集中できずに、いた。
 電子掲示板の案内は何度見ても、変わらない。
 少し煮つまりかけたときに、ふっと数日間のことを書いたら自分はどんな言葉を並べるのだろうと考えた。

 ペンは持っていたけれど、手帳は預けた手荷物の中に入れていた。
 ないと知りつつも、一応カバンの中を探ってみた。
 そのあと、あっ! と手にしていた本のカバーを半分だけぺラッとはがした。

 9つの旅の話は、そこに書きとめた短い言葉を書き起こしたもの。
 日ごろからいざ書こうとして言葉にならない言葉はそのまま葬ろうというのが、わたしの書くことに対する考え方なのだけれど、今回はやり方を変えてみた。

 ひとりでいろんなものを見て、考えて、感じている間、ずっとわたしの頭の中ではそのときの思いを言葉に変換していた。
 同じフレーズが何度も頭の中を駆け巡ったり、キーになる言葉を見つけてひとりしっくり感じたり。
 そういうことをくり返しながら、旅をしていた。

 とっさにメモとして使った書店の名前の入ったブックカバー。
 こうして書き終えても、捨てないような気がしている。
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by fastfoward.koga | 2007-03-21 21:35 | 旅行けば