言霊の幸わう国

こんがらがった糸

 仕事を終えてうちの最寄り駅に着いたら、雨が降っていた。
 降り始めなのか、振り続けていたのかわからないような雨だった。

 地面はそう濡れてはいない。
 かかとがそうとう擦り切れた靴からは、歩くたびに規則正しい音が鳴った。
 傘をしっかりともったサラリーマンとすれ違う。
 ほんの少し坂になった道を歩きながら空を見上げると、いい位置で雨粒を捉えた。

 そうそう、雨は空から降るものだった。

 駐輪場まで歩く道すがら、ベスパを走らせながら、同じような映像を見たときのことを思い出していた。
 時には雨。
 時には雪。
 どの場面でも、わたしは今日と同じように降るという動詞の意味を噛みしめていた。

 そこからするすると、いろんなことを思い出した。
 一緒に見た人のこと。
 そのとき乗っていた車。
 死んだら、そのときの思い出を持っていこうと思ったこと。
 そう思ったきっかけになった本のこと。
 酔っ払って、隣にいるすきな人とこのまま死んでもいいと思ったこと。
 その人の誕生日と新しい年齢のこと。

 そして、今ならどの思い出を持っていくか。

 連想ゲームのように、するすると出てきた。
 まるで、手品師が口から紐でつながった国旗を出すように。

 ときどき癇癪をおこしたとき、自分の中でこんがらがった糸を無理やりちぎったつもりでいた。
 でも糸はそう簡単には切れないらしい。
 やっぱりというか、さすがというか。

 今日もちまちま紡いだ糸が、いつかまたこんがらがる。
 望んでも望まなくても。
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by fastfoward.koga | 2007-04-24 23:45 | 一日一言 | Comments(0)