言霊の幸わう国

元カレ

 元カレと飲みに行った。
 元カレと言っても、もう干支もひと回り。
 店を出て、別れて、駅に向かいながら数えて思わず笑えた。

 わたしは、元カレに対してはともだちや同士というきもちが強い。
 でも向こうは会うと1度は「あのまま付き合っていたら」とか「あのときこうしていたら」ということを、必ず口にする。
 きっともう結婚してこどももいる余裕からなのだろう。
 と、わたしは余裕の笑みを浮かべる。

 彼はあと1週間で、妻子を京都に残して単身東京へ行く。
 今日はその壮行会のつもりで飲みに行った。
 だから、もちろんわたしの奢りだ。
 この歳になると、男性側は奢らせくれることが少ない。
 その点、彼はきもちよく「ごちそうさま」と言い、わたしに奢らせてくれる。
 そういうところが、楽なのかもしれない。

 また数ヶ月したら会えるか、ぐらいのきもちを残して店を出た。
 階段を降りて、それぞれ真反対にある駅に向かうことにそこでやっと気づいた。
 もうもしかしたら2度と会えないかもしれない。
 ほんの少し酔っ払って、わたしは送り出すための言葉をくり返した。
 
 手を振って別れて、2度振り返った。
 今まで1度もしたことがないことをした。
 2度目はどうやってもその背中を見つけられないとわかっていながら、もうひとつ向こうにある人通りの多い交差点に目を凝らした。

 電車に乗ってから、メールが届いた。
 メールには「お互い身体大事にして、いい長生きしよう」と書かれていた。
 数年前ではありえない言葉だ。
 同い年だけれど、お互いすっかり身体の心配をするような歳になったのだ。

 ふられたとき、あの人から得たのは道を教えてもらったことくらいだと言って泣いた。
 それももう遠い昔のことだ。
 思い出すと、笑える。

 今日も壮行会と思いつつ、結局半分以上わたしの話を聴いてもらった。
 申し訳ない。

 帰りの電車で、右手をかざして思っていた。
 この指先のどこかは、彼と過ごした時間や彼から感じたなにかでできているのかもしれないと。

 そんなふうに思えて、付き合える元カレは彼ひとりで十分だ。 
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by fastfoward.koga | 2007-05-29 00:00 | 一日一言 | Comments(2)
Commented by asntbs at 2007-05-30 23:12
なんだか
とっても素敵な話です。

爽やかな映像イメージが
僕の中に溢れ出て

このたった1分間で
素敵な短編映画を観たようでした。
Commented by fastfoward.koga at 2007-05-30 23:32
asntbsさん、こんばんは。
お褒めいただいて、恐縮です。

さわやかな話でもないんですけど。
ふと別れたあとに、わたしのいくつもの旅の珍道中を聴いてくれていた彼の表情を思い出したら、大きな意味で愛されているなと思いました。
お恥ずかしい話ですが。