言霊の幸わう国

火の国  「悪くない」

 いつもと逆方向の電車。
 そこから、旅は始まった。

 決していつもがそうだというわけではないのに、方向が違うだけで乗り合わせた電車の雰囲気はなぜかよそよそしく感じた。
 地下鉄を降りて、モノレールに乗り換え。
 心配していた滞りもなく、順調に空港へ近づいていた。

 今回初めて、伊丹空港へモノレールで向かった。
 見晴らしのよさを見せつけるかのように、モノレールは得意げにすいすいと進んでゆく。
 だんだん乗客が少なくなるにつけて、外の景色がよく見えるようになると、遠くに背の高いビルが見えた。
 あれは弁天町か、南港か。
 他に目印がないか、視線を忙しく動かした。
 すぐに、会社の近くの背の高いビルを見つけた。
 まだ飛行機にも乗っていないのに、遠くまで来てしまったような気になった。

 カバンの中のチケットを確認したりしていると、空港に隣接された駅まであとひとつになっていた。
 そこで、モノレールはくるんと円を描いた。
 あれあれ、と目が泳いでいるうちに、またさらに大阪の街が遠くなっていた。

 地下鉄に乗っているときは、やけに気が競っていた。
 誕生日は残りわずかなのに、まだわたしはこんなところにいる。
 そんなきもちになっていた。

 でもモノレールの居心地の良さに、悪くない。
 そう思わず、ひとり心の中でにっこりした。


 数日前から、いつものように週間天気予報は確認していた。
 でも、今は梅雨なのだ。行き先の熊本が雨でも仕方ない。
 そう考えていたから、雨の降り方なんて気にしていなかった。
 空港のロビーに到着して、いつもよりごちゃごちゃと文字が書かれた電子掲示板を見たときに初めて、あーっと苦い思いが少し込み上げた。

 その苦い思いは形を変え分裂し、ぐるぐると頭の中を巡った。
 予定よりも、予想よりも、長めに空港で時間を過ごした。

 なんとかして熊本へ今日辿りつきたいという熱い思いの一方で、どうやってこのピンチを乗り切るかを楽しむ自分、そのまた一方で誕生日なんだよーという自分。
 ドキドキもしたし、ひやひやもしたし、わくわくもした。
 どれもがいっぺんに押し寄せてきたりもした。

 どんな決着が今日の最後に待ち受けているのか、それは誰にもわからない。
 涼しい顔とは裏腹に、きもちは逸っていた。

 定刻を30分ほど過ぎ、やっと飛行機は滑走路へ向かった。
 それでもまだ落ち着かず、窓の外を覗き込むように見た。
 ちょうど飛行機は大きな体を方向転換させ、まっすぐ伸びる滑走路のスタート地点に着いたところだった。

 暗い中、青い色の誘導等が進むべき方向を示していた。
 一分の狂いもなく等間隔に並んだ光は、力強く光っていた。
 きれいだった。

 ゴーっという音をたてて、飛行機は加速を始めた。

 偶数歳がどうも苦手なわたしは、なったばかりの34という数字を少し憂鬱に思っていた。
 でも急に、34も悪くないと思った。

 悪くない。悪くない。
 離陸するまで、なんども心の中でつぶやいた。
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by fastfoward.koga | 2007-07-05 22:36 | 旅行けば