言霊の幸わう国

火の国  「カラッと」

 熊本空港へ向かうバスは、冷房が効きすぎていた。
 カバンから薄いカーディガンを取り出し、布団のようにかぶってしばしの間、うとうととした。
 なんとなく目を開けると、空港の建物が見えてきた。
 もう着いたのかと、ぼんやりした頭で降りる準備を始めた。

 昼過ぎくらいまでは、携帯で熊本空港の発着状況は確認していた。
 でも昼を過ぎると熊本市内は風は強いものの、雨は少し弱まっていたから大丈夫だと高をくくっていた。
 が、ANAもJALも、カウンターの前は人でごった返していた。

 入口でその様子を見て、一息ついてから運行状況を示す掲示板に目をやった。
 熊本空港発伊丹行きは、天候確認中となっていた。
 チェックインも一旦中止しているような状態だった。

 しばらくは掲示板を見、ANAからのアナウンスに耳を傾けていた。
 数回は、使用機がまだ熊本空港に到着していないため、飛ぶか飛ばないかの判断もできないということをくり返していた。
 何分後にその判断をするのかカウンターに確認しようかと考え始めたころ、となりのJALからのアナウンスが聞こえてきた。

 使用機が熊本空港から引き返したため、伊丹行きは欠航します・・・。

 やばいなと思った。
 これは判断を誤ると今日中に京都へ、いや関西に帰れなくなると思った。

 次の案内は18時15分ごろです、というANAのアナウンスを聴いたところで、ここにいても仕方ないと2階の出発ロビーに行くことにした。
 ロビーのベンチはもっと混んでいるかと思ったけれど、ポツポツと空きがあった。
 荷物の重さに嫌気がさす前にと空いている席に座ろうと思ったところで、先にうちに電話をしようと携帯電話を取り出した。

 ハハが電話に出た。
 昨日の朝と同じように、第一声は「今、どこ?」だった。
 事情を説明して、とりあえず飛行機が飛ぶかどうかがわかったらまた連絡すると電話を切った。

 ロビーのテレビは、ちょうど夕方のニュースを流していた。
 熊本のローカル局だ。
 熊本県内・市内の今日の雨の様子と、ここ数日の雨量などを伝えていた。
 市内では雨で起こっった自動車事故があったようだ。
 でも案外中にいる人間はそのすごさがわかんもんやな、と思いながら、ぼんやりニュースを見ていた。

 テレビの向こうに、熊本空港の滑走路が見えていた。
 雨の降り方までは遠くてわからない。
 でもあそこを飛行機が横切らないと、少なくともこのまま飛行機では帰れないなと思っていた。
 一旦熊本市内に戻って、福岡行きのバスに乗るか。
 とりあえず博多まで行けば、新幹線か夜行バスに乗れるだろう。
 それとも、夜まで待って熊本市内から大阪や京都行きの夜行バスに乗るか。
 明日はもう仕事は絶対休めないと、わたしの頭の中では九州から京都までの地図と交通網が渦巻いていた。

 眉間にしわを寄せて、難しい顔をしていたと思う。
 シートに体を沈めて、おっさんみたいだったんじゃないだろうか。
 でも、そんなわたしの前を1基の飛行機がすーっと横切った。
 あれ!? と体を起こして、周囲を見回した。
 でも周りはなにも変わりない。
 違っていたのかと思っていると、アナウンスが流れた。

 使用機が到着したので、伊丹行きの飛行機が飛ぶという。
 チェックインをお済ませでないお客さまは・・・と、言う言葉が続いた。
 また心の中でよっしゃーと力強く呟いて、わたしはベンチからすくっと立ち上がった。

 約1時間遅れで出発した飛行機は、飛んでしまうとあとはするんと伊丹へ到着した。
 機内の中で、久しぶりに目にした青い空に、びゅんときもちを持っていかれた。
 そうだ空はこんなに青かったのだと、忘れていないのに忘れていたような気にさせられた。

 白いもくもくした雲の上に、無限に続いてゆく青い空。
 あぁ今自分は空の上にいるのだ。ここに、確かにいるのだ。
 そんなことを感じていた。

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 なんでもできるような気がした。
 体の奥から力が湧き出してくる、そんな感覚でうずうずした。

 熊本で雨を体中に吸い込んだ。
 でも体もきもちもふやけさせることなく、最後は青く広がる空でカラッと仕上がった。
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by fastfoward.koga | 2007-07-20 23:31 | 旅行けば