言霊の幸わう国

本と、旅と

 会社への行き帰りの電車の中で、1冊の文庫本を読み終えた。
 絲山秋子の「逃亡くそたわけ」
 昨日、買った本だ。

 物語は福岡を舞台に始まる。
 そこから、大分、熊本、宮崎、鹿児島と、主人公たちは昭和生まれのマツダの車で逃亡を続ける。
 その行程を、わたしはアクセルを踏み込むように加速をつけて、一気に最後まで読み切った。
 ラストシーンに辿りついたのは、ちょうど最寄り駅まであとひと駅というところだった。

 九州のいくつもの町。
 そのいくつもの町の中で、いくつもの景色を頭の中に思い描いた。
 あの場所のことだ、あのあたりのことだろうか。
 そんなことを考えながら、読んでいた。

 旅をすると、そんなふうに本の中に広がっている世界がぐんと近づくことがある。
 一方で、本を読むことで見知らぬ町を旅をするようなきもちになることもある。

 どちらもすきだし、どちらも捨てがたい。
 どの町も、どの本も、両方の思いで触れることができたら、と欲張りなことを考えたりする。

 昨日、久しぶりにすきな人と夜更かしの長電話をした。
 もう明日が早いから切らなくてはと言いながら、わたしがあと2回残っている18きっぷの使いみちについて話すと、話は終わらなくなった。

 彼は、あそこに行ってみたい、あーここもいい、とほんとうに今すぐ飛んでいきそうな声を出す。
 わたしは携帯電話を片手に、その町をネットですぐに検索してみる。
 ふんふん、と相槌を打ちながら、もうわたしの頭の中はそのうちのどの町にどんなふうにして行こうかという思いでいっぱいになっている。

 旅に出られないくらい忙しい彼のために、わたしが行くのだ。
 なんて言うと、怒られるだろうけど。
 今日のような出会いがあると、じっとしてはいられない。
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by fastfoward.koga | 2007-08-14 23:43 | 一日一言