言霊の幸わう国

明るい未来

 わたしは道に立っていた。
 左京区の修学院あたり。近くに叡電が走っているのが、わかった。
 右隣には男の人。
 隣に男の人がいるということも、その人自身の存在も、どちらもが安心感をくれた。
 その人とわたしは並んでまっすぐな道を、歩いた。
 少しすると小さな交差点に差しかかった。
 右を見ると、金木犀が咲いているのが見えた。
 そのオレンジ色の花が印象に残った。
 わたしと男の人は、また歩き出した。
 歩きながら、わたしはB4版くらいの本を開いていた。
 まるで小学生の本読みのように、顔の前に本を掲げていた。
 その姿勢でいると、前は見えない。ときどき本の位置を下げて、先に危険がないかを確認していた。
 本越しには、道の両端に数名の学生らしき若者がいるのが見えた。
 空は青く、陽射しがまぶしくて、目の前がオレンジ色に包まれていた。
 本の上げ下げをくり返しているうちに、わたしは泣けてきた。
 でも泣いてはいけないと、しばらくは堪えた。
 ふと気づくと、隣にいたはずの男の人は数歩後ろを、わたしのあとに続くように歩いていた。
 わたしはその位置にいる男の人を認めたところで、あぁ前を見ていないことの心配も今胸の中にある心配も忘れて泣いていいのだと思った。
 本で顔を隠しながら、わたしは泣いた。涙が流れ、声を出して泣いた。


 泣き出すあたりで、それが夢だということはわかっていた。
 同じ朝、その夢を見る前にも泣き叫ぶ夢を見ていたから、これは泣けと言っているのだと観念して夢の中では我慢するのをやめた。
 声が洩れてしまうんじゃないかと怖くなるくらい、激しい泣き方だった。
 でも実際は、涙が流れ落ちることもなかったし、ため息さえも洩らすことはなかった。

 本当は最後まで夢を見て、泣ききればよかったのだと思う。
 でもここでもわたしは泣くことをよしとしなかった。
 どこまでも意地を張っている。

 けれど、夢が示したものはちゃんと受け止めた。
 まっすぐの光り輝く道。
 暖かさを確かに感じた陽射しと、オレンジ色のエネルギー。

 わたしの未来は、明るい。
 しかも、底抜けに。
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by fastfoward.koga | 2007-11-01 23:09 | 一日一言