言霊の幸わう国

師走のホーム

 ともだちと飲んで別れたあと。
 駅のホームで特急を10分ほど待っていた。

 なんとなく口寂しくて買った午後の紅茶のミルクティを、両手でくるくる回していた。
 アルコールがちょっと入って、酔ったというほどではないけれどぼんやりしていた。

 そのぼんやりした空気の中を、遠くから聞こえる声がすーっと忍び込んできた。
 初めは自分に話しかけられていると思わなかった。
 でも誰もその声に応えないことを不審に思って、くるりと首を左に回した。

 そこには、わたしよりも若いサラリーマンが立っていた。
 彼は「出町柳へは次のK特急が早く着きますか?」と、わたしに聞いていた。

 はいはいと肯定を力強くするために、わたしは数回首を立てに振った。
 彼は1度納得した様子を見せ、こう言った。

「寝屋川市駅から出町柳行きに乗ったはずなんですけど、なぜかここにいるんです。ホームは間違ってなかったと思うんですけど。」

 彼がなぜわたしにそう言うのか一瞬疑問が頭を過ぎったけれど、酔ったようすもなく不安げなようすはかえってわたしを和ませた。
「ホームのあっち側とこっち側じゃだったんじゃないですか。」
 と、わたしは手振り身振りでそう答えた。
 そう答えながら、寝屋川市駅のホームが初めから離れ離れだということを思い出していた。
 でもそれを正して、突っ込む気にはならなかった。

 わたしは最後に、「出町柳には次のK特急が早いですよ」と口角を上げてもう1度声に出して言った。
 彼は会釈をして、ホームの前方へと去っていった。

 今年も残すところあと10日ほどだからか、23時近いのにホームはいつもより多くの人で賑わっていた。
 わたしはなぜか、もう2度と会わない彼が安心して特急で出町柳まで辿りつけるように、ホームで切に願った。
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by fastfoward.koga | 2007-12-21 01:22 | 一日一言 | Comments(2)
Commented by korotyan27 at 2007-12-22 08:01
一度しか会わないであろう人でもなぜか印象に残る人もいますよね。
通り過ぎてゆく人に対するkogaさんの気持ちに暖かくなりました。
Commented by fastfoward.koga at 2007-12-22 16:15
korotyan27さん、こんにちは。
いつもは、そんなにやさしくないですよー、わたし(笑)。
ちょっとアルコールが入っていたので、警戒心がなかっただけです。
相手のサラリーマンもかなり天然ボケっぷりをオーラで出してましたし。

でもわたし、よく人に道を聞かれるんですよね。
旅先とか新幹線の中とか、なぜわたしはチョイスされたのか不思議に感じることがあります。