言霊の幸わう国

ふりだしにもどる

「胸のうちを他者に伝える作業は、じつはとても複雑で、微妙で、時間を要するものである。ひりひりした緊張感をともなう思いやり。そんな心の変換装置があってこそ、言葉は生きる。」

                       堀江敏幸  『一階でも二階でもない夜 回送電車Ⅱ』


 右耳を枕に当てながらもう眠りにつこうと読んでいて、数回読み返し、ハッと気がついた。
 まさにそれは、ハッとした瞬間。

 最近、文章を書くのが下手になったと感じていた。
 数ヶ月前、数年前の自分が書いたものを読み返しても、そのころのほうがいいなと思う。
「さんご」を書いていても、言葉に詰まることしばし。
 もっとすらすら言葉が出てこないものかと、少し苛立つ。

 それと同じようなことが、どのくらい続いていたのか。
 人にわかってもらおうと口にする言葉の数は、確実に減っていた。
 どうせわたしが思うほどの器では受け止めてはもらえないと、諦めたのだ。
 初めはほんとうに物足りなさを感じていた。
 でも途中からは口に出すこともせず、ひとりくさっていた。

 こどものころから出し惜しみする欠点を指摘されてきたけれど、今だってそれは変わらない。

 邪魔くさかった。
 それがこの1年近く、わたしが思っていたことの大半なのかもしれない。
 もうここではないところへ行って、イチから全部やり直したかった。
 でも逃げ出す人間に、見えないなにかは容赦ない。
 結局1番手離したくないものを、手離してしまった。

 そんなわたしが書くものだから、書くものもつまらない。
 器も中身も、共倒れだ。

 だから、冒頭の言葉ひとつひとつが身に沁みた。

 歪んだ部分を元に戻したい。
 戻して、言葉を生かすことができるように、なりたい。
 やり直すなら、聴く耳をもてた今だな。
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by fastfoward.koga | 2008-01-08 22:51 | 一日一言