言霊の幸わう国

雨女がゆく ~出雲市 「とんき」

 出雲大社のお参りのあと、少し遅めの昼食をすませると、わたしはすでにその日の目的をすべて終えてしまった。
 どうしようかと思いつつ、足は帰り道へと歩を進めていた。
 せめて最後の楽しみに、行きはバスだったので帰りは電車にしようと思い、一畑電鉄の出雲大社前駅へと向かった。
 小雨の中歩き辿り着いた駅舎は、上部にステンドグラスを施しており、真ん中には大きなストーブが焚かれていた。
 電車が出るまではまだ40分ほどあり、暖をとりながらいつものようにハガキを書いて駅舎の入口にあったポストに投函した。
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 今回は珍しく悪状況が重なり、夜行バスではよく眠れなかった。
 仁万から出雲へ戻る電車でほんのわずかだったけれどコテンと眠り、眠気はさほど感じていなかったけれど、一畑電車で出雲市駅へ戻り、駅前の温泉でひと風呂浴びたら、そのままホテルで眠りたくなってしまった。
 結局欲望に従い、いつもの旅よりもずっと早くチェックインをすませ、2時間ほどホテルでゴロゴロと過ごした。

 18時を過ぎ、夕飯をどうしようかとホテルの周辺をぐるりと回り、1番初めにピンときたとんかつ屋さんのとんきに入った。
 お店の中は落ち着いた店構えに反して心地よい活気があり、大勢いる店員さんが皆てきぱきと動く様は見ていてきもちがよかった。
 まず生ビールを注文し、つきだしで飲んでいると、店員さんが次々と話しかけてくれた。
 旅行ですか? どちらから来られたんですか? とカウンターの向こうの厨房でくるくると回るように動きながら、忙しいのにみんな笑顔を見せてくれた。
 ヒレカツ定食が運ばれ、まずはこれからとヒレカツを一口齧ると、さくっとしていてとてもおいしかった。
 お肉は前歯で簡単に噛み切れるほどやわらかく、添えられてきた付けダレがまたほどよい酸味と甘さで、おいしいおいしいと小さくつぶやいて食べたほどだ。

 ヒレカツをもったいぶりながら食べていると、お店のご主人がサービスですと小鉢に入ったしじみを炊いたものを出してくれた。
 ご主人にもさっきと同じような質問をされ、答えたあと、今日はどこへ行ったのかと尋ねられた。
 出雲大社へお参りに行ってきたと言うと、そのとなりにある歴史博物館へは? と聞かれた。
 そういえばとバスの中から見た建物を思い出し、行ってないんですと言うとご主人はあそこもいいですよと教えてくれた。
 明日は松江へ向かうと話していたわたしに、ご主人は少し残念そうな表情を見せた。
 だからというわけではなかったけれど、わたしはこう返事をした。
「また次の楽しみにとっておきます。」
 その言葉に、ご主人はとてもうれしそうに笑ってくれ、自分の言った言葉ながら、そうこれが旅の醍醐味なのだと思った。

 旅の楽しみは、旅先に少し心残りを置いてゆくこと。
 また今度、と思える旅ほどいいものはない。
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by fastfoward.koga | 2008-01-24 23:20 | 旅行けば | Comments(2)
Commented by asntbs at 2008-01-25 00:50
なんだか、お店での光景が目に浮かぶようです。
とっても、その「とんき」に行きたくなりました◎

僕も、3月にちょっと旅を計画中。
お遍路さんになろうかと、ね。
Commented by fastfoward.koga at 2008-01-26 00:19
asntbsさん、こんばんは。
お遍路さんとは渋いですね。
わたしもいつかはと思っている旅なので、また教えてくださいね。

「とんき」はとってもいいお店でした。
我ながら自分の鼻のよさに感心したものです(笑)。